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アメリカ大統領選
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昨年末、「イスラーム国」(IS)から西部のラマディを奪回して勝利の報に酔いしれたイラクのアバーディ首相だが、今年一月、思わぬ敵に直面している。イラクの真ん中を流れるチグリス川上流の、モースル・ダムが決壊寸前の状態にあるからだ。このダムが崩壊したら、4時間でモースルは水没し、増水した川は1日以内でティクリートを、2日でバグダードを襲う。首都ではバグダード国際空港やサドル・シティーなどは被害を免れそうだが、都市の中心部のほとんどが冠水すると推測されている。その結果、最悪の場合には50万人が死亡し、100万人以上が家を追われるという。イラク戦争にも匹敵する、アルカーイダやISや宗派対立による内戦などの被害をはるかに超えた大参事になるのでは、と恐れられているのだ。 何故、ダムが決壊の危機に至っているのか。1984年に建設されたモースル・ダムは、もともと老朽化していたが、イラク戦争後も2014年まで
シーア派の人々の襲撃を受けて出火するテヘランのサウジアラビア大使館 ISNA-Mehdi Ghasemi-TIMA-REUTERS サウディアラビアでのシーア派宗教指導者ニムル師の処刑、在テヘラン・サウディ大使館への抗議の暴徒化、イラン・サウディ間の国交断絶、親サウディ諸国の対イラン断交――。年頭から急に緊迫化した中東情勢に、友人がフェースブックでこう嘆いた。 「いつも『問題は宗派対立じゃない』といい続けてきたけど、またくりかえさなきゃならないのか」。 友人の嘆きのとおり、日本のメディアには、イラン=シーア派、サウディ=スンナ派の宗派対立との論調が相次ぐ。だが、英インディペンデント紙にロンドン大学比較哲学の教授が書いているように、「イランとサウディ間の緊張関係は宗教とほとんど関係ない」。むしろ「両国関係は地域覇権をめぐるもの」であり、「神なき世界政治の現実」だと、ムガッダム教授は言う。サウ
イラク戦争から13年が経過してもバスラの復興は進んでいない(写真は2008年頃撮影のバスラ市街地) WIKIMEDIA COMMONS 27年振りに、イラク南部の最大都市、バスラに行った。 イラク戦争後、日本研究に取り憑かれた熱心なイラク人の学者がいて、彼と日・イラクの学者間合同研究大会を過去10年間続けてきたのだが、それが初めてイラクのバスラで開催されたのである。治安の問題があって、これまで専ら日本国内で開催してきた――イラク国内で開催したのは、2009年にわずかにクルディスタン地方政府のアルビルでの会議のみだ――のを、イラク側のたっての希望で、イラク国内で実施することになった。 イラク国内は、外務省渡航情報を見ると、どこも真っ赤、退避勧告がでている。バスラを始めとするイラクの南部四県は少し赤味が薄い。世界有数の油田地域であり、石油精製、港湾設備など関連産業でかつて外国人ビジネスマンであ
私は京都のある大学で週1時間だけ「メディア論」の授業をしています。先日のテーマは「雑誌の読み方」。読んでいる週刊誌や月刊誌を持参し、なぜその雑誌を購入したか語ってもらうことにしました。 「雑誌は買わない」「読まない」という学生も多かったのですが、ひとりが持ってきたのが、「ニューズウィーク日本版」7月8日号でした。マイケル・ジャクソンの特集を読みたかったのかと思いきや、「世界が尊敬する日本人」の特集があったから、という返答でした。とかく日本人は自信喪失気味。そんな気分のときに、元気の出る、勇気をもらえる特集が気に入ったようでした。書店の店頭で表紙を見て、買う気になったのですね。ちなみに、ニュース週刊誌を持参したのは、この学生ひとりでした。 この特集で取り上げられている日本人の中には、私が知っている人も何人かいることはいるのですが、その多くは、知りませんでした。それだけ私の視野が狭いということ
中東から研究者を日本に招聘すると、多くの場合「広島、長崎に行きたい」と言う。日本に来たからには被爆地を見ないことには、という人は、少なくない。 「第二次大戦でアメリカに核攻撃された日本、その敗戦から立ち上がった日本」は、中東諸国で長く「いいイメージ」として定着してきた。イスラエルやアメリカの圧倒的な軍事力の前にねじ伏せられてきた、というアラブ諸国の思いが、戦争の被害者としての日本への共感として寄せられる。「平和主義の日本」、あるいは植民地支配した西欧諸国やイスラエルを支援するアメリカのようには、「アラブ諸国に悪さをしてこなかった日本」といったイメージを、政府も企業も、さらにはNGOなど援助団体も、最大限に利用してきた。 しかし、そのイメージは、ある意味でアラブ側が勝手に作り上げた日本に対する夢を、日本側が適当に利用してきただけではないか、とも思える。彼らが抱く日本像に対して日本の立ち位置を
国連は、世界の人口が2100年に112億人に達すると予想する報告書を発表した。人口が世界最大になるのはインドの16億6000万人で、2位の中国は10億400万人。日本は8300万人で、労働人口が全人口のほぼ半分になる。労働人口は毎年1%ずつ減っているので、10年後には実質GDP(国内総生産)はマイナス成長になるだろう。 ただ一人当り成長率はプラスを維持できるだろう。人口密度も下がるので住みやすくなるが、全国の密度が一律に下がるわけではない。地方の過疎地は無人化してインフラが維持できなくなるので、放棄するしかない。「地方創生」と称して全国に公共事業をばらまく政策はやめるべきだ。 他方で大都市には人口が集中して高齢化が進む。東京都の人口分布のピークは25年後には60~65歳になり、高齢者が143万人も増える。これに老人ホームなどの増設で対応しようとしても、現役世代の減少で税収も減るので、都市財
シリコンバレー・テクノロジーの次のトレンドは、AIとロボットだ。ふたつはそれぞれ違った分野だが、重なり合うところもある。これが同時に盛り上がってきたのは腑に落ちることだ。 そのうちロボットについては、「ロボット大国・日本」の行方が気になって仕方がないほどにいろいろな動きがある。気になるというのは、実力のある日本のロボットが早く、負けずに出てきてほしいと願うからである。 ロボットの開発を見ていても、そこにアメリカの「プラグマティズム(実践主義)」とシリコンバレーの「ビジネス志向」がしっかりと出ているのがわかるのだ。 プラグマティズムの方は、ともかくできるところからやってみるというアプローチだ。ロボットの場合は、技術的に可能になったもの、値段としてもそれほど無理なく手に入るもの、そうしたものを組み合わせたら何ができるかという点を探る。 たとえば最近よく見られるタイプのロボットは、自律走行して目
今週のコラムニスト:レジス・アルノー ある日の真夜中、私は凍りつくような寒さと妻と2人の娘が鼻をすする音で目を覚ました。自分の鼻の先を触ってみると、まるで氷のよう。数時間前にベッドに入ったとき、私はエアコンを付けるべきかどうかという、毎晩お馴染みのジレンマと闘っていた。エアコンを付ければ、頭の上で「ウー」という騒音が鳴り続け、東京電力の株主たちを喜ばせ、翌朝息苦しいほど乾燥した部屋で目を覚ますことになる。 それなら、エアコンを付けないでおくべきなのか。そうなればもう1度、バーチャル北極ツアーに出かける準備をしなければいけない。 私はベッドの中で、ガタガタ震えながら思った。「そうだ、ここは日本だった。G20で第2の経済大国でありながら、住宅環境はG20で最悪の、日本だった----」 欧米人の中には、日本の家をその小ささから「ウサギ小屋」と揶揄する人もいる。実はそれほど小さくないのだが(部屋が
6月25日に自民党の「文化芸術懇話会」で、複数の自民党議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」と発言し、これに応じて作家の百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」などと発言した事件は大きく報道され、国会でも取り上げられた。 この背景には、安保法案をめぐる国会審議が終盤に来て、自民党の推薦した参考人が「憲法違反だ」と発言し、会期を大幅に延長するなど、与党が苦境に追い込まれている焦りがあるのだろう。マスコミ各社はここぞとばかりに言論弾圧問題を取り上げているが、実際の言論統制はこんなに白昼堂々と行なわれるものではない。 私のジャーナリストとしての経験でも、政治家から直接「これを報道するな」と介入を受けたことは一度もない。大部分の事件は「今回は抑えてほしいが、次は優先的に情報を提供する」といった形で、政治家とマスコミの取引で闇に葬られるのだ。政治部では、そういう政治
今年も憂鬱な就活の季節がやってきた。会社訪問は4ヶ月繰り下げられて8月からということになったが、そんな建て前を信じていたら乗り遅れてしまう。3月に会社説明会が始まったときから、実質的な就活は始まっているのだ。 それでもまだ前期の授業は何とかなるが、後期の授業には4年生はまったく出てこなくなる。10月に内定が出るので、そのあとどんな成績を取ろうが(卒業できる限り)人生に影響はないからだ。学生も大変だろうが、勉強する気のない学生に講義する教師は、壁に向かってボールを投げるようなものだ。 こういう奇妙な現象は昔から指摘され、就職協定も何度も結ばれたが守られない。根本的な問題は、企業が大学教育に何も期待していないからだ。これを放置して文部科学省は「スーパーグローバル大学」や大学院重点化など、夢のような構想を打ち出してきた。 ところが今年6月、全国の国立大学に対して文科省は「文学部や社会学部など人文
しばらく前からジャーナリズムの衰退が報じられているが、アメリカのインターネット・メディアを見る限り、メディアサイトの数は増え続けているようだ。新聞や雑誌の数はどんどん減っている一方で、毎年のように新しいメディアのサイトが生まれて、それが人気を得ている。 たとえば、よく知られたサイトで比較的新しいものを挙げただけでも、バズフィード(BuzzFeed)、クォーツ(Quarz)、ミディウム(Medium)、フュージョン(Fusion)などがあり、いくつかのメディアサイトをまとめあげたメディア会社にはヴォックス(Vox Media)などがある。ヴォックスは、テクノロジー・ニュースのザ・ヴァージ(The Verge)や食関連のイーター(Eater)などを擁し、最近はウォールストリート・ジャーナル出身の有名なジャーナリストらが運営していたリコード(Re/Code)を買収した。ニューヨークタイムズでデー
国会の憲法審査会で自民党の推薦した長谷部恭男氏(早稲田大学教授)が「安保法案は憲法違反だ」と発言したことで、法案の今国会成立が危うくなってきた。普通は与党推薦の参考人が与党の法案に反対することは考えられないが、これは依頼した自民党が悪い。 長谷部氏は以前から、早稲田大学のウェブサイトなどで「集団的自衛権は、日本を防衛するための必要最小限度の実力の行使とは言えないため、憲法の認めるところではない」という立場に賛成しており、与党の参考人となりえないことは明白だった。 これまで長谷部氏は自衛隊については「解釈改憲」を容認する立場で、特定秘密保護法にも賛成したので、自民党は味方だと思ったのだろうが、彼はすでに学問的に違憲とする見解を表明していたので、それと矛盾する意見はいえない。普通は参考人を依頼されたとき「私は反対だけどいいんですか」ときくと思うが、あえて問題提起しようと考えたのだろう。 厳密な
政府が6月末に決める2020年度までの財政健全化計画が、大詰めを迎えている。「景気がよくなれば税収は増える」という安倍首相に迎合する民間議員は、1日の経済財政諮問会議で「歳出削減ではなく成長率を上げて税収増をはかるべきだ」と提言し、安倍首相は2018年にプライマリーバランス(PB)の赤字を対GDP比で1%とする「中間目標」を明言した。 歳出を削減しないで財政赤字が減るなら結構なことだが、そんな夢のような話が可能なのだろうか。日本の政府債務はGDP(国内総生産)の233%で、第2次大戦後のイギリスの250%に次ぐが、平時としては世界記録だ。イギリスの政府債務は戦争が終わると減ったが、日本はこれから超高齢社会になるので、債務はさらに膨張する。 図1は現在の健全化計画のもとになっている内閣府のシミュレーションだが、平均3%以上の名目成長率を想定した「経済再生ケース」でも、2020年度にPBは1.
「イスラーム国」(IS)の脅威が、本丸に迫っている。 5月22日、サウディアラビア東部のシーア派人口の多いカディーフ市で、シーア派モスクが自爆攻撃によって攻撃され、21人が死亡した。それから一週間後の29日には、同じくシーア派人口の多いダンマン (ダンマーム)市でモスクが攻撃され、4人が死亡した。ダンマンはサウディ最大の油田地帯の中心都市にあたり、同国第二の港として日本の石油業界関係者にもなじみの深い街だ。 この攻撃を実施したのはISだ、と犯行声明が出されている。イラクとシリアを舞台とするだけでなく、サウディの油田地帯を燃え上がらせるようなことになれば、その影響はこれまでの比ではない。ペルシア湾岸の「有事」が絵空事ではない、前代未聞の大混乱が生まれる。 ただ、ISが本丸に迫った、というのは、油田地帯に来たから、というのではない。ISのみならず現代のさまざまなイスラーム武闘派が出現する遠因を
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