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比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第6回の公開です! 1 「伝説のこたつ集会」 「かくいう私もイエロウ・マジックを身につけるべく、日夜戦いつづけているのだ」。細野晴臣が坂本龍一の『千のナイフ』のライナーノートにこう書きつけた時、イエロー・マジック・オーケストラのファースト・アルバムのレコーディングはすでに開始されていた。前にも触れたように、1978年4月にリリースされた「トロピカル三部作」の三作目、細野晴臣&イエロー・マジック・バンド名義の細野のソロ・アルバム『はらいそ』に収録されている「ファム・ファタール~妖婦/FEMME FATALE」の演奏は細野と坂本龍一、高橋幸宏の三人で行われており(このアルバムで三人の演奏はこの曲のみ)、この録音の際に細
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。第3回のテーマは「入店」です。もちろん客ではなく、働き手として店にはいる時、どんな動き、どんな言葉が必要でしょうか? はじめての職場で仕事をするときに誰もが直面する問題です。 さあ、入店! さて、あなたは何らかの手順を経て飲食店に入店を果たし、これから料理人になるための第一歩を踏み出します。具体的に先ずそこでは何をするのでしょうか。その初日を具体的に追っていってみましょう。 出勤すると、制服を渡され、着替えや私物の保管、タイムカード(実際は最近はほぼPCのアプリに置き換わっていますが、やはりそれはタイム「カード」と呼ばれ続けています)の操作法などを教えられます。着替えてタイムカードを押したら、早速、キッチンに入ることになるでしょう。おっと、その際にとても大切なことがあります。元気に挨拶! です。 「今日からお世話になりま
はじめに †美学とは 本書は美学についての本です。 美学とは、美や芸術や感性についての哲学です。哲学ですから、抽象的な話をします。美とは何か。芸術とは何か。本書ではそういった概念を扱います。 美学というものがひとつの学問分野として成り立っていて、しかも大学で教えられているなんて、私は大学生になるまで知りませんでした。 個人的な話になりますが、私が学部の4年間を過ごした大学の文学部では、入学後に専攻を選ぶことができました。20余りもある分野から、1年生のうちに選択します。もともと哲学に関心はありましたが、いざ入学して授業が始まると、あれもこれも面白くて候補は増えるばかりです。夏になっても消去法で半分にしか絞ることができず、友人に呆れられていました。 秋になると、専攻選択のためのガイダンスがありました。ここで各研究室の詳しい話を聞くことができます。長丁場のプログラムも終盤にさしかかった頃、美学
ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2023年10月号より転載。 土偶ブームが続いている。端緒を探れば、2009年に大英博物館で開催された「土偶の力:古代日本の陶像」展あたりが最初のムーブメントだっただろうか。18年夏に東京国立博物館で開催された特別展「縄文 1万年の美の鼓動」が予想を超える盛況を博したこと、21年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコ世界遺産に登録されたことなども特筆されるだろう。 このような土台があった上で、21年、大きな話題を集めた本があった。竹倉史人『土偶を読む』である。副題は「130年間解かれなかった縄文神話の謎」。一読、おもしろいなあと思った私は週刊誌に書評も書いた(「週
フーコー、ドゥルーズ、デリダら「現代思想」の巨星なき後に続く、現代フランス哲学の展開を一望する渡名喜庸哲さんの新著『現代フランス哲学』。政治思想史・政治哲学研究者の宇野重規さんによる書評を、PR誌『ちくま』10月号より転載します。 『現代フランス哲学』というタイトルを読んで、何を想像するだろうか。あるいは世代によって違いがあるかもしれない。フランス哲学といえば、サルトルの実存主義を思う人もいるだろう。多いのはレヴィストロースの構造主義から、フーコー・デリダ・ドゥルーズの三人を中心とするポスト構造主義までの、いわゆる「フランス現代思想」ではなかろうか。日本においても、これまで多くの優れた解説書が出版されてきた。 しかしながら、そこで当然に生じる疑問があるのではないか。現代フランス思想とは、これらの思想的潮流に尽きるのだろうか。あるいは、これら「現代思想」のさらに後の展開はないのだろうか。評者
人や作品が商品として消費されるとき、そこには抗い、傷つく存在がある。 2021すばるクリティーク賞を受賞し、「新たなフェミニティの批評の萌芽」と評された新鋭・西村紗知が、共犯者としての批評のあり方を明らかにしつつ、愛のある批評を模索する。 丸サ進行は、まだ絶対いける。 4.「ウェルメイド」性からの脱却へ向けて ずっと真夜中でもいいのに。の「丸サ進行」の実践は、防波堤の変奏にその眼目を置くものであるように思う。この防波堤を乗り越えることが、「丸サ進行」曲の言わば共通課題ではなかろうか。しかし「ずとまよ」の場合、その表現の比重が置かれているところの、自己理解の遅延並びに他者との衝突の回避とあいまって、防波堤の克服も遅延されたままとなる。「丸サ進行」の特性を最も理解しているのは彼らだと思う。「あいつら全員同窓会」でストリングスを導入しているのは、さりげなく革新的だ。より生っぽい器楽的音色と機械的
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第5回の公開です! 1 「THOUSAND KNIVES」と「ISLAND OF WOODS」 それではいよいよ『千のナイフ』を聴いてみよう。 1曲目はアルバム・タイトル曲「THOUSAND KNIVES」。曲名はベルギーの画家・詩人アンリ・ミショーの詩集『みじめな奇蹟』の冒頭の一節より。曲の始まりは毛沢東の詩を収録したレコードの(今で言う)サンプリングで、「水調歌頭 重上井岡山(水調歌頭・ふたたび井岡山に登る)」という詩の朗読をヴォコーダーに通したもの。1927年10月、毛沢東は自ら率いる蜂起軍(ゲリラ)とともに井岡山に辿り着き、農村革命の根拠地を立ち上げた(このことから井岡山は「武装闘争発祥の地」と呼ばれる)。
私にとって初めてのレギュラー番組「トゲトゲTV」が終了した。 麻貴ちゃん(3時のヒロイン)とサーヤ(ラランド)と3人、思えばあっという間だった。 番組は、「いま勢いのある女芸人3人が」という触れ込みで始まったように記憶しているが、私は2人と比べて圧倒的にテレビの仕事が少なかった。複数のコンテンツに手を出して勝手に慌ただしくしていたものの、番組のオファーというものは数えるほどで、いつも疲れた様子で収録にやってくる2人を見ては、「早くこうならなくては」と身を引き締めた。いつになく女芸人に追い風が吹いた時代だった。この番組はその一環。レギュラーに浮かれてはいけない。 各々のコンビでネタを書いている、いわゆるブレーンの3人だ。麻貴ちゃんと私は芸歴10年を超えていた。それぞれ、自分が面白いと思っていることはすでに確立していて、それは大きく変化した印象はない。しかしせっかくのレギュラー番組だから、時間
蓮實重彥さんの連載時評「些事にこだわり」第15回を「ちくま」9月号より転載します。延々とつづく渋谷駅周辺の再開発。東横線の地下化はじめ誰も便利になったとは思っていないはずの一連の大工事は都市再開発法によると「公共の福祉に寄与することを目的とする」そうなのだが、本当に? との疑問についてお話しさせていただきます。 避けようもない暑い日ざしを顔一面に受けとめながら、タワーレコードの渋谷店で購入した海外の雑誌を手にしてスクランブル交差点にさしかかると、すんでの所で信号が赤となってしまう。階段を降りて地下の通路に向かう方法もあるにはあったが、年齢故の足元のおぼつかなさから灼熱の地上に立ったまま青信号を待つことにしていると、いきなり、かたわらから、女性の声がフランス語で響いてくる。ふと視線を向けると、「そう、シブーヤは素晴らしい」と「ウ」の部分をアクセントで強調しながら、スマホを顎のあたりにあてた外
ラテン・シリア、キプロス島、ラテン・ギリシアなど、12世紀末以降各地で建設された十字軍国家。その700年にも及ぶ歴史を明らかにするのが櫻井康人著『十字軍国家』(筑摩選書)です。同書について、中東イスラーム史を専門とする堀井優さんに書評していただきました。ぜひご一読ください(『ちくま』9月号より転載)。 1095年のクレルモン教会会議での教皇ウルバヌス2世による呼びかけで始まった十字軍運動は、キリスト教会の敵と戦うことによって得られる贖罪を目的とし、当初の聖地十字軍にとどまらず、約700年間持続した。本書は、この運動を担った十字軍士が樹立した諸国家の歴史を追ったものである。ヨーロッパの周縁にあって、キリスト教世界の理念に支えられた十字軍諸国家の命運は、支配層をなす人々の思惑や周辺諸勢力の動向に左右された。そうした経緯が、政治的事件を中心に長期にわたって綿密に叙述される。 十字軍諸国家が存在し
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第4回の公開です! 1 山下達郎、細野晴臣、矢野顕子らとの出会い 1977年3月、坂本龍一は東京藝大大学院修士課程を修了した。イエロー・マジック・オーケストラのファースト・アルバムがリリースされるのは1978年11月25日なので、このあと二年足らずで彼の人生は激変することになる。だが、そこに至るまでも、濃密な日々がめまぐるしく展開していた。 YMOの『イエロー・マジック・オーケストラ』の発売1カ月前に当たる1978年10月25日、坂本龍一は『千のナイフ』をリリースした。記念すべきファースト・ソロ・アルバムだが、必ずしも「満を持して」というわけではなかった。このアルバムは何度か再発売されているが、2016年に最新リマ
ブレイディみかこさんの『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』は、2014年ロンドンで実際に起きた占拠運動をモデルとした小説です。本書が突き付けてくるものは何か? 私たちと無縁なのか? 小説家の高橋源一郎さんによる書評です。 「二〇一三年八月のある暑い日、三人の若い母親たちがロンドンのホームレス専門のホステルの一室に座っていた」という文章からこの小説の第一章は始まってる。シングルマザーで白人のジェイド、ラッパー風ファッションをした黒人のギャビー、そしてフィリピン系移民の母親がいるシンディは、元ネイリストで爪に薔薇を描いている。この三人が集まったのは、住んでいるホステル、というかシェルターから退去するよう通告を受けたからだ。なぜかって? 彼女たちが住んでいる「E15」地区では古い建物を壊して、高級マンションやモダンなアパートに建て替える「ソーシャル・クレンジング」(地域社会の浄化ってこと
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。第2回のテーマは「修行」です。料理の仕事に限らず、いずれ独り立ちする仕事の多くは修行期間が必要となるでしょう。でも、その「修行」はほんとうに必要なのでしょうか? 会社員ではない働き方を考えている人には刺さること間違いなし。 修行は必要なのか 「修行って本当に必要なんですか?」という質問を受けることがあります。 最近では、10年以上かかるとも言われる寿司の修行を、2ヶ月のカリキュラムに圧縮した「寿司アカデミー」なども話題です。修行に10年もかけるのは無駄ではないか、単に修行の名目でいいようにこき使われるだけなのではないか、そう思っても不思議ではありません。 ならば修行は不要なのか。結論から言うと、私の考えとしては、やっぱり必要だと思います。本当に10年必要かどうかは考え方次第だとは思います。しかし不要とはとても言えません。
ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2023年9月号より転載。 今年、2023年は関東大震災から100年の年である。 1923年9月1日午前11時58分、関東地方一円を襲ったマグニチュード七・九の巨大地震。被害の大きさや死者の多さもさることながら、この震災は流言蜚語やデマによって大量の朝鮮人虐殺事件を引き起こした点でも、記憶すべき負の歴史だ。 近年の歴史修正主義によって、教科書や副読本の記述が後退したり、就任翌年の2017年以来、小池百合子都知事が朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文の送付を見送ったり。最近右寄りの動きが目立つ案件だけれど、半面、新しい歴史の掘り起こしが進み、関連書籍の新刊や復刊も相次いでいる
ナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(ちくま新書)より、同書に収録されている白井聡さんによる解説を公開します。本書が「資本主義社会の本質を理解するための第一級の文献」と言えるのはなぜなのか。「共喰い資本主義」の実態を暴く世界的政治学者の話題作を読み解きます。ぜひご一読ください。 まず第一に言わねばならないのは、ナンシー・フレイザーによる本書は近代資本主義社会、その本質を理解する上で、きわめて重要な、第一級の文献であることだ。筆者はこのことを深く確信する。 筆者自身のものを含め、近現代の資本主義の危機、いやもっと正確に言えば、危機を内在的にはらんでいる資本主義の構造を分析する言説は国内外に多数ある。そのなかでも本書は、資本主義社会の矛盾の全体性、全般性を、その歴史的変遷、転位を含めて鮮やかに図式化した点において、際立っている。現代の課題を考察する上で、最良の文献の地
「ブラウン神父」シリーズで知られる作家G.K.チェスタトン。彼はまた数々の評伝を書きました。なかでも『聖トマス・アクィナス』は中世最大の人物の核心を見事に掬い上げ、専門家から高い評価を得た作品です。ここに「はしがき」を転載いたします。どうぞご一読くださいませ。 今よりももっと世に知られて然るべきひとりの偉大な歴史的人物の一般向けの概説書――それが偽らぬ本書の狙いである。もし本書が聖トマス・アクィナスに関してほとんど聞いたこともないような読者を導いて、彼についてのさらに優れた書物へと誘う働きをすることになれば、本書の目的は達せられるであろう。この必然の制約から生じる結果については、最初からご斟酌をお願いしておかねばなるまい。 第一に、この物語は、主として、聖トマスと同じ教派に属する人、つまりカトリック信徒ではなくて、孔子やマホメットに対して私が持っているのと同じような興味を彼に対してたぶん持
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第3回の公開です! 1 4週間続いた新宿高校でのストライキ 新宿高校時代の有名なエピソードに、坂本龍一が中心となって行なった「ストライキ」がある。 3年生の秋ごろ、新宿高校でストライキをやりました。69年の秋ですから、当時としては遅い方なんですが、安保条約とかベトナム戦争とか、そういう一般的な問題ではなくて、ローカルな、学校の個別課題に関しての運動でした。たしか具体的な要求を7項目、学校に突きつけました。制服制帽の廃止、すべての試験の廃止、通信簿の廃止、等々。(『音楽は自由にする』) このときのことは、「3バカトリオ」の塩崎恭久と馬場憲治の対談「革命同志・坂本龍一を偲ぶ」(『文藝春秋』2023年6月号)でも語られて
ミッドウェー海戦の戦死者3418名を突き止め、戦死者と家族の声を拾い上げた『記録 ミッドウェー海戦』(澤地久枝著)が、ちくま学芸文庫で復刊されました。単行本版の刊行から37年。本書の意義を、日本近代史がご専門の加藤陽子さん(東京大学教授)が評してくださいました。 昭和戦前期の政治的事件と国家の暴力を描き続けてきた澤地久枝さんの作品は、簡潔かつ乾いた文体で書かれていることが多い。凄腕の編集者である石田陽子さんが、澤地さん(以下、敬称は略す)の本50余冊から選んだアンソロジー『昭和とわたし』(文春新書)を手に取れば、それが実感できる。14歳での満州引揚体験が綴られた『14歳〈フォーティーン〉』(集英社新書)が対象とした最初期の頃から、『妻たちの二・二六事件 新装版』(中公文庫)、『滄海よ眠れ』(文春文庫)等の代表作を世に送り出す頃までの澤地の人生が、このアンソロジーでたどれる。文体については、
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さん。数々のレシピ本を出し、食に関するエッセイ・小説なども精力的に発信しています。そんな稲田さんが、料理人という仕事について考えを綴った連載がはじまります。どうすれば料理人になれるのか?必要なものとはなにか? 一人でやるのか誰かとやるのか? そんな疑問に答えます。飲食店のバックヤードに興味がある人、つい飲食店の開店動画を見てしまう人、必見です。 料理人になるためのルート プロの料理人になるためには、いくつかのルートがあります。 まず王道は、なんと言っても調理師学校を卒業し、そこからの紹介などで然るべき飲食店やその運営会社に就職するルート。就職のしやすさやその後のキャリアアップを含めて考えても、このルートが最も確実なのは間違いありません。私自身は結局、調理師学校を経ないままプロになりました。それでもなんとかなりはしましたし、ある意味それで良かったとも思っ
「死にたいと言う人は構ってほしいだけで自殺しないから大丈夫」といった話を聞いたことがないだろうか。しかし著者が「死にたい」とTwitterに投稿する人の実態を調べると……『「死にたい」と言われたら――自殺の心理学』より本文の一部を公開! 可視化された「死にたい」 皆さんは、Twitterで「死にたい」と検索したことがあるでしょうか? 必ずしもTwitterでなくても良いですが、TwitterなどのSNS上には「死にたい」という声があふれています。検索をしてみれば一目瞭然で、この原稿を書いている今も、そしてこの原稿が読まれている時も、おそらくは変わらず、多くの人が「死にたい」とつぶやいているはずです。 「死にたい」にはもちろん、さまざまな意味があります。どのような意味でこの言葉を発しているかは、ケースバイケースです。かなり深刻に自殺を考えており、具体的な自殺の手段まで準備している場合もあれ
「恋のツラみ」から「職場でのつまずき」まで、現代人のお悩みに、世界文学のあの作品この作品を紹介しつつ、キリッと答えていく堀越英美さんの好評連載。第4回のお悩みは…… 【お悩み】 早く結婚したいと思っていますが、好きになる人が、ことごとく結婚に向かないタイプの異性ばかりです。穏やかで堅実な人と結婚すれば幸せになれるとわかっていますが、そういう人では物足りないのです。 【お答え】 『嵐が丘』を読んで自分の恋愛をパターン分析してみよう。 ◆ 「あいつだけはやめときな」的恋愛の3大パターン 「あいつだけはやめときなって……」と周囲から言われるような相手にのめり込む恋愛には、大きく分けて3つのパターンがあるように思う。 ①ダメな人の世話を焼くことで自分の存在価値を感じている ②いつも自分を抑えて生きているので、やりたい放題の傲慢な強者に憧れてしまう ③性格が悪くて人付き合いが苦手なので、自分と同じよ
戦時中、少なからぬ人々が、頭上を飛ぶB-29を見て「美しい」という言葉を残していました。人を殺す兵器を見て美しいと感じる、その感覚と深く向き合った『B-29の昭和史』の書評を、大塚英志さんに執筆していただきました。PR誌「ちくま」に掲載したものより少し長い、完全版です。 ぼくは言うまでもなく「おたく」の類だが、ミリタリー方面には疎く、手先が不器用でプラモデルも苦手だ。模型雑誌に一瞬手を出した時があったが、もっぱら海洋堂の綾波レイのガレージキットの情報が目当てで、買って箱ごと観賞用に飾るだけだった。それでもナチスドイツの戦車や飛行機の模型写真に思わず見とれる時があった。思想的にはぼくはベタなサヨクだが、その「思想」に反して、兵器のデザインを「美しい」と思うことがある。ぼくと比較するのはあまりに不遜だが、宮崎駿もその左派的発言とミリタリーマニアぶりの解離はよく知られている。若き日の宮崎がミリタ
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第2回の公開です! 坂本龍一は、1952年1月17日、東京都中野区に生まれた。父親は河出書房/新社の文芸編集者だった坂本一亀、母親は帽子デザイナーの坂本敬子。龍一はひとりっ子である。 両親と幼少時の思い出を坂本龍一は何度か語っている(『音楽は自由にする』2009年、『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』2023年、吉村栄一が坂本に長期間にわたりインタビュー取材を行って著した『坂本龍一 音楽の歴史』2023年、など)。 1 近くて遠い存在だった父親 三島由紀夫の『仮面の告白』(1949年)を始めとして、埴谷雄高、高橋和巳、野間宏、椎名麟三、井上光晴、中村真一郎、小田実、丸谷才一、いいだ・もも、辻邦生など戦後文学の重要作
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ唯一無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を、「時代精神」とともに描き出す! ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→https://aebs.or.jp/
ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2023年6月号より転載。 四月一二日、元ジャニーズJr.のメンバーだった男性が自らの被害体験を実名で証言。ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏の性的虐待事件が波紋を広げている。 喜多川氏については「週刊文春」が1999年に少年たちへの性的虐待を「セクハラ」と報じ、名誉毀損で訴えられるも、東京高裁は「セクハラ」に関する記事の重要部分は真実と認定した(2004年に判決が確定)。また今年三月には、この件を告発したイギリスBBCのドキュメンタリー番組が放送されている。 同様の事案として想起されるのはカトリック教会の性的虐待事件である。02年にアメリカのボストン・グロ
蓮實重彥さんの連載時評「些事にこだわり」第14回を「ちくま」7月号より転載します。いまなおメディアをにぎわせつづける「マイナ」という略語が誰にとっての「マイ」かも判然としないまま、むしろそれを覆い隠さんとするかのように醜く繁茂する本邦の惨状について。 解約するのが億劫なのでつい自堕落に購読し続けている首都圏向けのさる地方紙によると、ついせんだっての朝刊の一面に「保険証廃止し統一/マイナ改正案可決」の文字が二行にわたって比較的大きな活字で印刷され、その下に「参院特別委」の文字が横組みで読める。だがそれにしても、この「マイナ」とはいったい何か。それがいかなる言葉の略語であろうぐらいのことは、およその想像がつく。だが、それにしても、「マイナ改正案」なる雑駁な語彙は、いくら新聞社が「マスメディア」としての機能を放棄しつつある冬の時代だとはいえ、日刊紙の一面に堂々と印刷さるべきものなのだろうか。 リ
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの新連載、始まります。*本連載は大幅な書き下ろしを加えて『「教授」と呼ばれた男――坂本龍一とその時代』として2024.4.11に刊行しました 2023年4月2日日曜日の夜9時過ぎ、私は新宿某所で夕食を摂っていた。 ふとスマートフォンに目をやると、契約しているニュース・アプリから通知が届いていた。そこには「坂本龍一の死」が報じられていた。私はスマホから一瞬目を逸らし、小さく深呼吸をしてからもう一度、その画面を凝視した。 見間違いではなかった。坂本龍一が、坂本さんが、逝ってしまった。記事には数日前の3月28日に亡くなったとあった。享年71。がんとの闘病が伝えられていたとはいえ、早過ぎる死というほかない。私は突然の訃報に接した動揺と
「自分自身の死から30日後、地球に巨大小惑星が衝突する」「人間は不妊化し、地球上の人々は次第に死に絶えていく」。この2つのシナリオから、われわれの生の意味に迫り、反響を呼んだ書『死と後世』(サミュエル・シェフラー著)がついに邦訳されました。訳者・森村進氏による紹介をここにお届けします。 英国の作家のP・D・ジェイムズ(1920-2014)といえば、アダム・ダルグリッシュ警視や女性探偵コーデリア・グレイが登場する重厚な――人によっては重苦しすぎると感ずる――長編ミステリ『ナイチンゲールの屍衣』や『女には向かない職業』などによって今でも高く評価されているが、彼女はそれ以外にも『人類の子供たち』(原書1992年。邦訳・ハヤカワ・ミステリ文庫)という異色作も書いていた。これは世界中で原因もわからないまま子どもが生まれなくなってから四半世紀が過ぎた2021年を舞台にしたSFである。 25歳以上の人し
常識とは反対のありえない主張をする「逆張り」――元来は投資用語であった言葉が、昨今では悪口や罵倒、あるいは自虐的な言葉として用いられるようになりました。この言葉をめぐる「社会評論」であり「当事者研究」ともいうべき一冊、綿野恵太『「逆張り」の研究』が本日発売となりました。『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(紀伊國屋じんぶん大賞2020第2位)『みんな政治でバカになる』が大きな話題を呼んだ批評家が満を持して贈る2年ぶりの新著です。 二〇二二年四月、朝日新聞の記者からメールが届いた。「「逆張り」について三人の識者に意見を聞いています。取材させてほしい」というものだった。「逆張り」について記者はこんなふうに説明していた。 もともと「逆張り」は相場の流れに逆らって売買する投資手法のことだ。たとえば、株式市場で株価が低いときに買って、高いときに売る。だが、最近はインターネットでよく見られる「良
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