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インタビュー
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UberEatsやamazon配達員など、アプリで仕事を請け負い、働きたいときだけ仕事をする、ギグワーカーと呼ばれる働き方が注目されています。時間にとらわれず、決められた職場もないその働き方は、一見とても自由そうに見えます。しかし、単発で業務を委託される個人事業主(フリーランス)は労働法上の「労働者」ではないため、労災保険が適用されず、最低賃金や長時間労働の規制対象にもならず、失業時の補償もありません。多くのリスクにさらされる人々を守るための枠組みを考える、橋本陽子さんの新著『労働法はフリーランスを守れるか―これからの雇用社会を考える』。労働法政策がご専門の濱口桂一郎さんによる書評を、『ちくま』4月号より転載します。 「フリーランス」というといかにもかっこよく聞こえるが、「一人親方」というとなんだか垢抜けない印象だ。でも両者は同じものを指している。他人(会社)に雇われるのではなく、自分一人
このほど『マルクス・コレクション』版の全面改訳を経て、『資本論 第一巻』(上・下)が文庫化されました。この大古典の翻訳をめぐり、訳者の一人である鈴木直氏が日本の翻訳史における興味深い一断面を切り取られています。ぜひお読みください。(PR誌「ちくま」より転載) 一度は読んでみたいと思っているのに、なかなか手が出ない。そんな著作ランキングがあれば、きっとマルクスの『資本論』はいいところまでいくはずだ。 読んでみたいと思う理由はいうまでもない。なんといっても「資本主義」を抜きにして現代は語れない。その「資本主義」という言葉は、ほかならぬ『資本論』の翻訳を通じて日本に定着した。デジタル革命と手をたずさえて、世界中でふたたび「富の集中」と「貧困の拡大」が同時進行しているこの時代に、もう一度、この資本主義論の源泉を訪ねてみたいと思うのは自然なことだろう。実際その分析は、今読んでもまったく輝きを失ってい
2024年3月5日、京都地裁で元医師に懲役18年の判決が言い渡された、いわゆる「京都ALS嘱託殺人事件」の報道では、明らかになっている事件のグロテスクさに触れたものは、ほとんどありませんでした。元医師は何を行い、裁判で何が罪とされたのか。報酬を得て難病患者を殺害した嘱託殺人。その事件をきっかけに発覚したのが、医師幇助自殺を希望する女性の英文診断書偽造、そして共犯の元医師の父親を殺害した事件。それらと安楽死議論を結びつけて論じるのは、そもそも大間違いなのです。話題の新書『安楽死が合法の国で起こっていること』著者、児玉真美さんによる特別寄稿です。 空疎な議論 2023年11月に上梓した『安楽死が合法の国で起こっていること』(ちくま新書)の「序章」で、京都ALS嘱託殺人事件への世論の反応に触れて、以下のように書いた。 私には、相模原事件(障害者施設殺傷事件)から後、衝撃的な出来事が起こるたびに、
2023年12月31日の紅白歌合戦で、YOASOBI「アイドル」のパフォーマンスが大きな反響を呼びました。その直前に初の批評集『女は見えない』を上梓した西村紗知さんは、この演出ではじめて「アイドル」という曲が理解できたと言います。芸能界に急激な変化が訪れるなかで求められる、真の「天才的なアイドル様」とは誰なのか? ここ数カ月のニュースを思い出しつつお読みください。 1.昨年末から最近にかけての話 故・ジャニー喜多川元ジャニーズ事務所社長による性加害問題に関する報道が本格的に過熱して以降、芸能界のハラスメント問題が世間を騒がせ続けている。昨年9月に宝塚歌劇団の団員が亡くなった件で、当初の方針から一転、親会社の阪急阪神ホールディングスはパワハラなどがあったことを認め、遺族側へ謝罪する意向を固めたという。ジャニーズ、歌舞伎界、宝塚に続き、お笑い界にもこの流れは及んでいる。昨年12月27日には「週
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。前回、料理人がどう料理を学ぶかの話をしました。それに関連して、このことだけは覚えておいてほしい「手の早さ」について、なぜこれが必要ななのかを考えます。 とある新人料理人の仕事ぶり 私がかつてお世話になった先輩の店の話です。その店は今時珍しく、結構な席数があり、オープンキッチンではオーナーシェフである先輩を含めて3人の料理人がいつも忙しく立ち働いています。ある時その店に久しぶりに食事に行くと、そこにはもう1人、若い料理人がメンバーに加わっていました。ピークタイムは外して行ったので、料理人の皆さんは、仕込みをしながら時折入るオーダーに対応しています。新人の料理人さんは、ニンニクの皮を剥いてそれをスライスする仕事を任されていました。私は自分がオーダーした料理を待つ間、その新人さんの動きが気になって仕方がありませんでした。なぜな
民主主義が機能不全に陥ってしまったとき、私たちはどうすればよいのか。民主主義のみならず、それを抑制・補完する原理としての自由主義、共和主義、社会主義といった重要思想を取り上げ、それぞれの歴史的展開や要点を手際よく紹介した梅澤佑介著『民主主義を疑ってみる――自分で考えるための政治思想講義』。同書より「まえがき」を公開します。 †空前の「民主主義」ブーム? ここ数年、「民主主義」という言葉を冠した本が数多く出版されています。その内容は民主主義を擁護するものから批判するものまでヴァラエティに富んでいます。同じ立場に立つものであっても、切り口やアプローチはさまざまです。しかも著者を見ると、狭義の政治学者だけでなく、いわゆる文化人と呼ばれるような人たちも民主主義について一家言があるようです。出版業界ではいま民主主義がブームになっているように見えます。 また、民主主義ブームは本の世界にとどまりません。
わたしたちが他者といる際に用いる様々な技法。そのすばらしさと苦しみの両面を描く『他者といる技法』(奥村隆著)がちくま学芸文庫として復刊・文庫化されました。言語哲学がご専門の三木那由他さんによる、本書の解説を全文公開いたします。 この社会において、私たちはすでに他者とともにあり、それゆえに他者といるためのさまざまな「技法」を用いて暮らしている。ではその技法とはどういったものなのか? 本書『他者といる技法』は、私たちが他者といるために用いるさまざまな技法を、ひとつの大きな枠組みのもとで体系的に論じている。 本書は全体の導入となる序章に加えて、六つの章から成っている。各章はそれぞれ独立に読むこともできるが、それとともにひとつのアイデアがすべての章を貫いている。それはすなわち「〈承認と葛藤の体系としての社会〉」(54頁)である。この社会観がもっとも詳しく説明されている第一章をもとに、ここで簡単に整
哲学者ロバート・ノージックが人生における多様なテーマを考察した『生のなかの螺旋』(ちくま学芸文庫)が刊行されました。ノージック初の文庫化です。本書の性格と著者の全体像について、法哲学者の吉良貴之氏が解説を書かれています。またとないノージック入門となっておりますので、ぜひお読みください。 本書『生のなかの螺旋―自己と人生のダイアローグ』は、Robert Nozick, The Examined Life: Philosophical Meditations, Simon & Schuster, 1989の全訳である。 著者のロバート・ノージック(1938-2002年)はアメリカの哲学者であり、長らくハーバード大学で教授職を務めた。最も有名な著作は、政治哲学上のリバタリアニズム(自由至上主義)の記念碑的著作とされる『アナーキー・国家・ユートピア』(原著1974年)だろう。ほか、認識論や心の哲学
ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2024年2月号より転載。 2025年4月から半年にわたって開催される予定の大阪・関西万博(以下大阪万博)に大逆風が吹いている。 まず工事の大幅な遅れである。 予定では大阪湾の人工島・夢洲に150余りの国と地域が結集し、円周2キロの大屋根の下に100を超えるパビリオンが並ぶことになっていた。うち60は参加国が自前のデザインで建設費も負担する「タイプA」の予定だったが、23年9月の時点で工事を申請した国はわずか2か国。焦った日本国際博覧会協会(万博協会)は代替案として各国にプレハブの建設を肩代わりする「タイプX」を提案するも、こちらの申し込みも限定的。24年1月10日現
久方ぶりに烈火のごとく怒ったのだが、その憤怒が快いあれこれのことを思いださせてくれたので、怒ることも無駄ではないと思い知った最近の体験について 蓮實重彥さんの連載時評「些事にこだわり」第17回を「ちくま」1月号より転載します。昨秋に開催された小津安二郎生誕百二十周年のメモリアル・イベントは、なぜ失望のうちに終わってしまったのか。その二十年前、著者自身も深く関わった生誕百年・没後四十年の記念イベントとの違いを思い起こします。ご覧下さい。 なかには例外的に聡明な個体も混じってはいるが、これからこの文章を書こうとしているわたくし自身もその一員であるところの人類というものは、国籍、性別、年齢の違いにもかかわらず、おしなべて「愚かなもの」であるという経験則を強く意識してからかなりの時間が経っているので、その「愚かさ」にあえて苛立つこともなく晩期高齢者としての生活をおしなべて平穏に過ごしている。ところ
2024年大河ドラマ『光る君へ』で、主人公のまひろ(紫式部)が学んでいた歴史書『史記』。その執筆にあたって、司馬遷はどのようなものを参照したのでしょうか。古代中国王朝の「記録」を出土文献に探り、歴史観の興りや歴史認識の変遷を読みとく『古代中国王朝史の誕生』冒頭を公開します。 中国古代の歴史書に関して、筆者には好きな話がひとつある。『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』の襄公(じょうこう)二十五年に見えるエピソードである。春秋時代、現在の山東(さんとう)半島に位置する斉(せい)の国に崔杼(さいちょ)という重臣がいた。この人が棠姜(とうきょう)という未亡人にひと目ぼれして妻に迎えた。 ところが悪いことに斉の君主の荘公(そうこう)が以前からこの棠姜と私通していたのである。だから彼女が崔杼と再婚したあとも、荘公は崔杼の邸宅に通って関係を続けた。それだけでなく彼の冠を持ち出して人に与えて辱(はずかし
飲食店をプロデュースする稲田俊輔さんが料理人という仕事についての考えを綴ります。飲食店のバックヤードに興味がある人、つい飲食店の開店動画を見てしまう人、必見。 料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店の展開に尽力する。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。近年は、食についての文章も多く発表している。著書に『食いしん坊のお悩み相談』『おいしいものでできている』(リトルモア)『キッチンが呼んでる!』(小学館)『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『ミニマル料理』『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレ
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。料理人はいかにして料理を学ぶのでしょうか? 料理学校、働いているお店・・・・・・。料理を学ぶ際の基本から伝授します。 「見て覚える」こそが重要 さて、あなたは新人として先ずは調理補助に追われ、それにもだいぶ慣れてきました。スピードも最初の頃に比べて格段に速くなったはずです。指示を待つだけでなく、自分から仕事を見つけてテキパキとこなせるようにもなったでしょう。 もしかしたらそれと並行して、ホールの仕事も一通り体験できたかもしれません。であればラッキーですね。いずれにせよ、そのあたりから徐々に、もっと料理らしい料理を任されるようになっていきます。最初は簡単な仕込みや、既に仕上がっているパーツを組み合わせるだけのことだったりもしますが、もちろん徐々にその内容は高度なものになっていきます。 任せられると言っても、当たり前ですが、
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第11回の公開です! 1 カンヌ国際映画祭、ベルトルッチ監督との出会い 『戦場のメリークリスマス』は、1983年の1月半ばに完成し、同年5月末に予定された、この種の芸術映画としては大規模な全国公開に向けて、宣伝チームが動き始めた。その際にもっとも重視されたのが、公開直前に開催されるカンヌ国際映画祭への出品である。大島渚監督は前作『愛の亡霊』(1978年)でこの映画祭の監督賞を受賞しており、カンヌの最高賞であるパルム・ドールの受賞は悲願でもあった。 書籍『『戦場のメリークリスマス』知られざる真実 ――『戦場のメリークリスマス30年目の真実』完全保存版』(WOWOW「ノンフィクションW」取材班/吉村栄一)には、当時の関
近代日本に「理想」という言葉を生んだプラトン哲学。その主著『ポリテイア』の核心を読み解き、哲学という営みが切りひらく最良の地平を描いた納富信留『プラトン 理想国の現在』が、このほど新版として文庫化されました。本書の問いかけを納富氏の足跡のなかに位置づけ、その哲学的意義をクリアに示した、熊野純彦先生による「解説」をご覧ください。 もう20年もまえのことになる。2002年の2月、北海道大学の千葉恵が最初の単著を出版した。『アリストテレスと形而上学の可能性』と題された大冊である。千葉とわたしとのあいだには、1990年にともに北大に就職したという所縁があった。本を贈られたこともあり、たしか神田の学士会館の一室で開かれた合評会に足をはこんだ。 野矢茂樹も北大の教養部で哲学と論理学とを講じていたことがあり、ほんの半年のことだったとはいえ、わたしとも同僚であった時期がある。野矢もまた、かつての研究室の隣
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。今回のテーマは料理ではなく「ホールの仕事」です。これらは別物と考えられがちですが、そんなことはありません。ホールから何を学べるでしょうか? 「キッチン」と「ホール」 飲食店の仕事は大きく2つに分けられます。「キッチン」と「ホール」です。これを読んでいる皆さんの興味の中心は、おおむね「キッチン」の方にあるのではないでしょうか。すなわち料理人としての仕事ですね。しかし、料理人であっても「ホール」すなわちサービスの仕事はとても重要です。今回はそこを掘り下げていきたいと思います。 キッチンスタッフの人数とホールスタッフの人数は、店の業態などにもよりますが、だいたい同数が基本です。小規模な個人店だと、たとえばご夫婦で営まれていて、男性がキッチンを、女性がホールを担当するというパターンをよく見かけると思います。そして店の規模が大きく
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第9回の公開です! 1981年、イエロー・マジック・オーケストラは3月に『BGM』、11月に『テクノデリック』という2枚のフル・アルバムをリリースした。どちらも以前の作品とは一線を画す実験的な内容であり、坂本龍一が「反・YMO」の衝動に突き動かされて作り上げた『B-2ユニット』が、はからずも細野晴臣と高橋幸宏の創作意欲を刺激したのではないかと思われる(二人は「ほとんど何も言わなかった」と坂本は語っているが)。 前年(1980年)の7月、ホライズン・レーベルの倒産のせいで宙に浮いていた『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』と『増殖』からセレクトされた「ベスト盤」の『X∞MULTIPLIES』と、シングル「ビハインド・
コーヒーの豆は遍在していながらドリップ・フィルターが近くに見あたらぬと、不意に親しい女性のお尻が見えてきたりするのはなぜか 蓮實重彥さんの連載時評「些事にこだわり」第16回を「ちくま」11月号より転載します。ありふれた朝食について、パンについて、コーヒーについて、コーヒーを淹れるためのドリップ・フィルターについて、なめらかに横滑りする行文は果たして半世紀以上前のドリップ・フィルターをめぐる一場面に至りつきます。まるで映画の一シーンのような光景の鮮やかさ、艶めかしさ。そう思うと、ドリップ・フィルターの曲線も不思議なバランスで実用性と官能性を表しているようにも思えます。ご覧下さい。 朝食だけはごく几帳面に食べたいという思いは、独身だった半世紀ほど前から老齢の妻帯者となったいまにいたるまでまったく変わることはないはずだが、ひとまず「ごく几帳面に」と書いておいたのは、それがいささかも豪華なものでは
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第8回の公開です! 1 苦肉の策から生まれた『増殖』 1980年6月、イエロー・マジック・オーケストラは通算4枚目に当たるアルバム『増殖 - X∞ Multiplies』をリリースした。収録時間は30分弱、全12曲(トラック)収録だが、そのうちの5曲が後述する「SNAKEMAN SHOW」であり、イントロ/アウトロも加えると、純粋な楽曲は「NICE AGE」「TIGHTEN UP」「CITIZENS OF SCIENCE」「MULTIPLIES」の4曲に過ぎない。「TIGHTEN UP」はカヴァーなので新曲と呼べるのはたったの3曲である。それもそのはずで、「NICE AGE」と「CITIZENS OF SCIENC
日本にも、終末期の人や重度障害者への思いやりとして安楽死を合法化しようという声がある一方、医療費削減という目的を公言してはばからない政治家やインフルエンサーがいます。「死の自己決定権」が認められるとどうなるのか。「安楽死先進国」の実状をみれば、シミュレートできましょう。11月刊ちくま新書『安楽死が合法の国で起こっていること』の冒頭を公開します。 1「安楽死」への関心の高まり 「あなたがインターネットで書いた記事がSNSで拡散されて、話題になっている」と知人からメールで知らされたのは、2022年の秋だった。ネットで書いた記事……? はて、どこで書いたっけ……? ネットで定期的に寄稿しているのは「地域医療ジャーナル」だけど、あれは有料会員限定だし、他は紙媒体にしか書いていない……。戸惑いながらメールに添付された写真を開くと、それはどこかの誰かのツイッターのスクリーンショット(スクショ)だった。
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。今回のテーマは「料理人が料理以外にやっていること」です。もちろん料理をするだけが仕事ではありません。ではなにをしているのか? その苦労とはなんでしょうか? 架空のドラマの架空のシナリオ (営業終了後の店内。テーブルに突っ伏して頭を抱えているタクゾウ。物陰からそれを心配そうに見守るキョウコ。) 「タクゾウ……だいじょうぶ!?」 「いや、今日は忙しくて疲れたから、ちょっと休んでるだけだよ」 「……もしかして、来週末のタカヤマ様の料理内容、まだ悩んでる?」 「メインは野鴨にした。タカヤマさんの大好物だし、運良くタカヤマさんの故郷の岐阜から仕入れられた。ちょっと期間は短めかもしれないけど、今吊るして熟成中」 「なら良かったけど……」 「ソースももう決まってる。ほら、前に長野のりんご園から未熟果のグラニー・スミスを送ってもらって冷
料理家の今井真実さんによる、新井一二三『青椒肉絲の絲、麻婆豆腐の麻――中国語の口福』についてのエッセイを公開いたします。中国・台湾でも活躍する新井一二三さんによる、中国料理ファン必読の本書。中国料理が大好きであり、作られる今井さんはどのように読まれたのか? 楽しいエッセイ、ぜひお読みください! ……しまった! 私のレシピ、間違っていたかも……。本を読み、じっとりと冷や汗をかくのは、初めての経験かもしれません。本書のタイトルにもなっている第一章の最初の項「青椒肉絲の絲」には、こう書いてあります。 「青椒肉絲の絲は絹の糸です。丁寧に細く細く、同じ幅に切られた豚肉が、中華鍋の中で油をまとい、皿の上できらきら光る。その視覚的イメージが持てて始めて、この料理名が本当に理解できたと言えるでしょう」 ……ギクッ。先日、奇しくも新しく出る本で青椒肉絲のレシピを書いたばかり。私にとっては自信作だったのですが
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第7回の公開です! 1 フュージョンの洗礼 まず、フュージョンについて考えてみなくてはならない。 YMOの世界進出のきっかけとなったイベントの名称は「フュージョン・フェスティバル」だった。そこに出演するためにアメリカからやってきたニール・ラーセンはジャズ/フュージョン系のキーボーディストであり、ラーセンとともに来日したトミー・リピューマもフュージョンにカテゴライズされるアーティストを数多く手がけてきたプロデューサーだった。フュージョンとは「融合」という意味だが、ジャズをベースに、ロックやポップス、イージー・リスニング、ディスコ、ラテン、レゲエなど多彩な要素を融合させた、基本的にはライトな音楽で、当時はクロスオーバー
洗濯物が溜まっていない、きちんと服が片付けられている、身の回りのそこかしこにケアがあります。生産性至上主義の社会からケア中心の社会への転換を考える、『ケアしケアされ、生きていく』より「はじめに」を公開! ケアって、一見すると「弱者のための特別な営み」のように思う人も多いでしょう。でも、実はあなたの日常がなめらかに、つつがなく廻っているのは、普段意識していない、気づかないところで、ケアがうまく埋め込まれているのです。 例えば、洗濯物や洗い物が溜まっていない、きちんと皿や服が片付けられている、歯ブラシや洗剤、トイレットペーパーのストックが買いそろえられている、布団が干されていて、賞味期限が切れる前に食材がうまく使われ、冷蔵庫のストックは補充されている……。これらは、誰かが気にかけないと維持されない、という意味で、ケアです。また、あなたが今、ここに生きているのは、これまで赤ちゃんの時から膨大な「
比類なき輝きを放つ作品群を遺すとともに、「脱原発」など社会運動にも積極的に取り組んだ無二の音楽家、坂本龍一。その多面的な軌跡を「時代精神」とともに描き出す佐々木敦さんの好評連載、第6回の公開です! 1 「伝説のこたつ集会」 「かくいう私もイエロウ・マジックを身につけるべく、日夜戦いつづけているのだ」。細野晴臣が坂本龍一の『千のナイフ』のライナーノートにこう書きつけた時、イエロー・マジック・オーケストラのファースト・アルバムのレコーディングはすでに開始されていた。前にも触れたように、1978年4月にリリースされた「トロピカル三部作」の三作目、細野晴臣&イエロー・マジック・バンド名義の細野のソロ・アルバム『はらいそ』に収録されている「ファム・ファタール~妖婦/FEMME FATALE」の演奏は細野と坂本龍一、高橋幸宏の三人で行われており(このアルバムで三人の演奏はこの曲のみ)、この録音の際に細
料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんによる「料理人という仕事」。第3回のテーマは「入店」です。もちろん客ではなく、働き手として店にはいる時、どんな動き、どんな言葉が必要でしょうか? はじめての職場で仕事をするときに誰もが直面する問題です。 さあ、入店! さて、あなたは何らかの手順を経て飲食店に入店を果たし、これから料理人になるための第一歩を踏み出します。具体的に先ずそこでは何をするのでしょうか。その初日を具体的に追っていってみましょう。 出勤すると、制服を渡され、着替えや私物の保管、タイムカード(実際は最近はほぼPCのアプリに置き換わっていますが、やはりそれはタイム「カード」と呼ばれ続けています)の操作法などを教えられます。着替えてタイムカードを押したら、早速、キッチンに入ることになるでしょう。おっと、その際にとても大切なことがあります。元気に挨拶! です。 「今日からお世話になりま
はじめに †美学とは 本書は美学についての本です。 美学とは、美や芸術や感性についての哲学です。哲学ですから、抽象的な話をします。美とは何か。芸術とは何か。本書ではそういった概念を扱います。 美学というものがひとつの学問分野として成り立っていて、しかも大学で教えられているなんて、私は大学生になるまで知りませんでした。 個人的な話になりますが、私が学部の4年間を過ごした大学の文学部では、入学後に専攻を選ぶことができました。20余りもある分野から、1年生のうちに選択します。もともと哲学に関心はありましたが、いざ入学して授業が始まると、あれもこれも面白くて候補は増えるばかりです。夏になっても消去法で半分にしか絞ることができず、友人に呆れられていました。 秋になると、専攻選択のためのガイダンスがありました。ここで各研究室の詳しい話を聞くことができます。長丁場のプログラムも終盤にさしかかった頃、美学
ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2023年10月号より転載。 土偶ブームが続いている。端緒を探れば、2009年に大英博物館で開催された「土偶の力:古代日本の陶像」展あたりが最初のムーブメントだっただろうか。18年夏に東京国立博物館で開催された特別展「縄文 1万年の美の鼓動」が予想を超える盛況を博したこと、21年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコ世界遺産に登録されたことなども特筆されるだろう。 このような土台があった上で、21年、大きな話題を集めた本があった。竹倉史人『土偶を読む』である。副題は「130年間解かれなかった縄文神話の謎」。一読、おもしろいなあと思った私は週刊誌に書評も書いた(「週
フーコー、ドゥルーズ、デリダら「現代思想」の巨星なき後に続く、現代フランス哲学の展開を一望する渡名喜庸哲さんの新著『現代フランス哲学』。政治思想史・政治哲学研究者の宇野重規さんによる書評を、PR誌『ちくま』10月号より転載します。 『現代フランス哲学』というタイトルを読んで、何を想像するだろうか。あるいは世代によって違いがあるかもしれない。フランス哲学といえば、サルトルの実存主義を思う人もいるだろう。多いのはレヴィストロースの構造主義から、フーコー・デリダ・ドゥルーズの三人を中心とするポスト構造主義までの、いわゆる「フランス現代思想」ではなかろうか。日本においても、これまで多くの優れた解説書が出版されてきた。 しかしながら、そこで当然に生じる疑問があるのではないか。現代フランス思想とは、これらの思想的潮流に尽きるのだろうか。あるいは、これら「現代思想」のさらに後の展開はないのだろうか。評者
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