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アメリカ大統領選
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民主主義を支える規範は、共和党の強硬な姿勢と、それに対抗する民主党の規範破りで徐々に失われていった[ホワイトハウス近くのエリプス広場で集会に出席するドナルド・トランプ大統領(当時)=2021年1月6日](C)EPA=時事 共和党のドナルド・トランプ前大統領と民主党のカマラ・ハリス副大統領が争うアメリカ大統領選は接戦が予想されるが、多くの識者が指摘するのは、どちらが勝ってもアメリカ政治の混迷は続くということだ。混迷の原因はどこにあるのか。アメリカはどこへ向かうのか。トランプ政権時代に『民主主義の死に方』を執筆し、世界的な民主主義の後退と権威主義の台頭を指摘したスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラット(ともにハーバード大学政治学教授)による注目の新著『少数派の横暴 民主主義はいかにして奪われるか』を、神戸大学教授の砂原庸介氏が読み解いた。 *** 前著『民主主義の死に方』(新潮社、原題:
ドイツでは交通インフラが老朽化し、列車の遅延や橋の崩落が社会問題化している。高速道路は全体の半分、鉄道網は4分の1以上に改修が必要だが、連邦政府の資金調達環境は厳しく国営ドイツ鉄道の株式売却も取り沙汰される。運輸大臣は財政規律に厳しい自由民主党(FDP)から出ており、積極的なインフラ投資を求める社会民主党(SPD)や緑の党と、連立政権内での折り合いがつかない。 ドイツ東部のドレスデン中心部で9月11日未明、エルベ川に架かるカローラ橋の一部が崩落した。川の南北に広がる同市を繋ぐ大動脈で、車や路面電車が通過する重要な橋である。崩壊の18分前には路面電車が通過したものの、怪我人はいなかったという。大雨による川の増水などにも見舞われたが、今も解体工事が続いている。 崩壊したカローラ橋が建設されたのは1970年代初めで、交通量の増加に合わせ、部分的に改修工事が行われてきた。崩落した100メートルほど
中国共産党の秘密主義は国家機密の定義が非常に曖昧かつ広範なのが特徴だ[2024年3月5日、北京で開幕した全人代で政府報告を聞く習近平総書記=中国・北京](C)XC2000/shutterstock.com 「あいつはバカだからさ」 こうしたストレートな習近平総書記批判を耳にする機会が増えた。コロナ対策では爆発的な感染拡大が起きた後、もう止められないと“誰もが”わかっていたはずなのに、何カ月もゼロコロナ対策に固執した。あるいは足元の不動産危機と経済低迷では大規模な景気対策が必要だと“誰もが”わかっていたはずなのに小出しの対策で時間を浪費してしまった……となると、悪態の一つもつきたくなるのだろう。 しかし、熾烈な権力闘争を勝ち抜いて中国のトップの座を勝ち取った人物が本当に「バカ」なのだろうか。 もう少し、もっともらしい説明を持ち出すならば、「独裁者のジレンマ」という話になろうか。強力な権力を持
ネタニヤフ政権にとっては、イスラエル北部から避難している6万人以上の住民を帰還させるためにも、ヒズボラをレバノン南部のリタニ川の北まで押し戻すことが最大の課題となった。世論も6割以上が攻撃強化を支持しており、民間人を巻き込むポケベル爆破作戦などで事態をエスカレートさせているのはイスラエル側だ。一方のヒズボラは、報復しなければその存在意義が問われるというジレンマに陥っている。 イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの間の緊張が高まり続けている。双方の交戦は2023年10月8日以来続いているが、直近のエスカレーションのレベルを引き上げたのは、イスラエルであると言える。 きっかけは、レバノンの首都ベイルートなどで9月中旬に起きた通信機器の連続爆発だ。17日、ベイルート南部などでヒズボラのメンバーが持っていたとされるポケベルが多数爆発。8歳の女の子など含めて少なくとも12人が死亡し
『ナショナル・ヒストリーを超えて』が発刊された同時期、上野千鶴子氏は「つくる会」に対抗する活発な言論活動を展開していた[記者会見する東京大学の上野千鶴子名誉教授=2015年11月26日](C)時事 (前回はこちらから) 上野千鶴子の「不在」 再び『ナショナル・ヒストリーを超えて』に戻ろう。1998年5月に刊行されたこの本において、今になってみるとむしろその不在によって自らを際立たせているように見える人物がいる。坂本多加雄らのいわゆる「つくる会」の面々ではない。この時期、やはり「つくる会」に対抗する活発な言論活動を展開していた人物――上野千鶴子である。 その一年ほど前、1997年9月にシンポジウム「ナショナリズムと『慰安婦』問題」が開催された。『超えて』にも論考を掲載していた高橋哲哉・徐京植が登壇するパネルセッションに先立って冒頭に開催されたのが、他ならぬこの上野千鶴子と歴史家・吉見義明の「
諸葛孔明や元寇などがどうとらえられ、活用されているかは中国人の歴史感覚を知る大きなヒントだ[東京電力福島第一原発の処理水放出が始まった昨年秋、中国人民抗日戦争記念館前を中国国旗を手に歩く子どもたち=2023年9月3日、中国・北京](C)時事 今年9月18日、中国広東省深圳市で日本人学校に通う10歳の男児が男に刺されて命を落とす痛ましい事件があった。発生したこの日は満洲事変の記念日で、中国政府側の説明はなされていないものの中国国内の反日感情が関係していた可能性が高い。奇しくも同日に新著『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)を刊行した安田峰俊氏が、事件の背景と中国人の歴史観について解説する。 *** 現地に滞在する日本人には「常識」だが、日本国内の一般人はほぼ意識していない中国のタブーは多い。その最たる例が「日付」だ。かつて盧溝橋事件が起きた7月7日、満洲事変(柳条湖事件)が起きた9月18
台湾では陸軍3個師団と2個旅団に加え、220万人の予備役を動員する計画が進行している[市街戦を想定して行われた台湾陸軍の訓練=2022年1月6日、台湾南部・高雄](C)時事 日米台など守る側の視点から台湾有事にアプローチする優れたシミュレーションは多いものの、中国側の視点――特に「上陸してから制圧するまで」に注目する分析は比較的手薄だ。地理的条件や戦力リソースなどの前提条件を踏まえると、軍事的には中国にとって非常に困難な作戦となることが浮かび上がる。最終的にはいかに困難な任務でも国家主席の決心次第だが、より蓋然性の高い主戦場として「封鎖作戦」「認知戦」のドメインを想定する必要性が示唆されている。 2024年7月18日、読売新聞に「中国軍、海上封鎖から台湾上陸『1週間以内で可能』と日本政府分析…超短期戦への対応焦点に」という記事が掲載された。同記事によると、中国軍は最短1週間で地上部隊を台湾
西尾のナショナリズムは、「天皇制度」を「国体」の本質に置く坂本多加雄とは異質な発想によっている[教科書の採択結果を受けて記者会見する「新しい歴史教科書をつくる会」の西尾幹二会長。同会長は文部科学省に採択の遣り直しを求める声明を発表した=2001年8月16日、東京都港区の虎ノ門パストラル](C)時事 (前回はこちらから) 天皇がいない『国民の歴史』 日本国憲法を否定せず、それどころかそれが定める象徴天皇制度を日本の伝統的な「国体」によって基礎づけようとする坂本の立場は、「改憲派」であることを自明の前提として来た右翼・保守と、「護憲派」であることを自明の前提としてきた左翼・革新の対立という既存の枠組みには収まらないものであった。それが『超えて』側の人々から見れば「厄介さ」のゆえんであっただろうことはすでに述べた。他方、既存の右翼・保守にとっても、それはにわかに飲み込みがたい主張であった可能性が
表には一切名前を出さないまま、600億円近い予算が動く国家プロジェクトの“エグゼクティブ・アドバイザー”として活動する伊藤穰一氏[2018年12月19日撮影](C)時事 伊藤穰一氏は2021年に発足したデジタル庁の事務方トップへの起用が土壇場で撤回された人物だ。性犯罪者から資金提供を受けていた過去を当時の菅首相が問題視したためだが、岸田首相が力を入れる「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」の実質的トップにまたもや伊藤氏が起用され、連携相手である米MITから「NO」を突きつけられた上、ハーバード大からも疑問の声があがったという。 2023年5月、広島G7サミットのために来日したジョー・バイデン大統領との日米首脳会談で、岸田文雄首相は「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSUC)構想」について熱弁を振るい、同構想実現に向けて両国が緊密に連携することを確認した。 GSUCとは、20
加熱式タバコ「IQOS(アイコス)」で知られるタバコ企業フィリップ・モリス・インターナショナル及び日本子会社フィリップ・モリス・ジャパンと、日本の二人の研究者の癒着を告発する報道が欧米で注目を集めている。告発者は、エボラ出血熱流行の際に医師免許を持つ異色の外交官として「国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)」に派遣されたこともある小沼士郎氏だ。特に京大教授のケースは、フィリップ・モリス・ジャパンから資金提供を受けていることを明示せず加熱タバコの安全性に関する論文を発表しており、医学界での明白なルール違反だと言える。 11月16、17日の2日間、東京都港区の建築会館で「現場からの医療改革推進協議会シンポジウム」を開催する。私と鈴木寛・東京大学公共政策大学院教授が共同で事務局を務め、医療に関わる当事者が参加し、様々な問題について議論する集まりだ。2006年に始まり、今年で19回目を迎える
自然環境の中でプラスチックごみが分解されるには何十年もかかる。これを効率的に進める菌は確かに一部で有効だが、やはりごみを減らす以上の対策はないようだ。そもそも菌類はなぜプラスチック分解能力を獲得したか、そしてなぜ根本解決にはならないのか。 [ドイツ・ノイグロープゾー発/ロイター]ドイツの科学者たちがプラスチックを食べる菌類を特定した。地球では毎年、何百万トンものプラスチックごみが海へと流れている。世界各地の研究者はプラスチックごみ問題の解決に挑んでいる。 ドイツ北東部のシュテヒリン湖で行われた調査では、微小な菌類が、一部のプラスチックだけを糧によく育つ様子が確認された。これにより、一部の菌類が合成ポリマーを分解できることが示された。 ライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所の研究グループを率いるハンス=ペーター・グローサート氏は、ロイターTVに対し「我々の研究で最も驚くべき発見は、菌類がい
イスラエルのネタニヤフ首相(左)と会談したハリス米副大統領は、イスラエルの自衛への強い支持を表明した上で、ガザでは「あまりにも多くの罪なき市民が死んでいる」と批判した[2024年7月25日、アメリカ・ワシントンDC](C)REUTERS/Nathan Howard ハリス副大統領の政治スタンスは、しばしば「曖昧」と評される。民主党候補として大統領選を戦う上で、それはトランプを批判しつつバイデンとの違いをアピールできる戦略的資産になり得るが、同時に支持者の失望と怒りに結びついてしまうリスクもある。そうしたハリス最大の難所はイスラエル政策なのではないか。ハリスのイスラエル擁護には、これまで「信念」と呼ぶべき熱が込められてきた。一方でガザの犠牲者が4万人に迫る中、ハリスに対してイスラエル支援からの脱却を期待する声も強い。ハリスはこの局面を乗り越えられるか。 1. 勢いづくハリス陣営 米大統領選か
テレビや新聞など伝統的なメディアの信頼性を維持しつつ、時代に適応したジャーナリズムのあり方を模索する必要がある (C)wellphoto/shutterstock.com ジャーナリズムの危機が叫ばれて久しいが、原因はどこにあるのか。米メディア界の精鋭たちが真剣な議論を重ね、いつの時代も変わらないジャーナリズムの「10の原則」を導き出し、今後のジャーナリズムとメディアのあるべき姿を提示したのが『ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則』(ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール著/澤康臣訳)だ。ジャーナリズムを学ぶための基本書として世界中で読まれ、何度も改版して内容を磨き上げている。今回翻訳された最新第四版では、インターネットやSNSの普及によるメディア環境の劇的な変化も捉え、日本のメディアにとっても示唆に富む。政策とメディアを専門とし、最近では「エモい記事」批判でも注目を集めた日本大
パリ・オリンピックで金メダルの有力候補とされる日本人選手の一人が、女子やり投げ世界王者北口榛花だ。指導者を求めてチェコの地方都市に移住し、五輪に向けてひたすら練習の日々を送る北口を、地元旭川で競技を始めた高校時代から知るジャーナリストが訪ねた。(北口選手の出場する陸上女子やり投げは、日本時間8月7日予選、11日決勝) *** 5月下旬、女子やり投げで世界の頂点に立つ北口榛花(26歳)の姿は、チェコの片田舎にあった。 「オリンピックでは、『金メダルが獲れたらいいな』くらいにしか思っていないです。獲りたいと思って獲れるものでもない。もちろん試合になったら『獲りたい』という気持ちになるので、そこまでの過程はある程度、余裕を持って『獲りたいな』くらいの気持ちで行きたいです」 北口の名前を世界に知らしめたのは、去年8月にハンガリーのブダペストで行われた世界陸上選手権だった。自身の最終投擲をメダル圏外
総選挙で新人民戦線の勝利が確定的になるや、すかさず記者会見を開いたメランション氏。だが彼は国民議会議員でも「不屈のフランス」の党首でもなく、もちろん新人民戦線の代表でもない[2024年7月7日、フランス・パリ](C)AFP=時事 与党連合との連携が奏功し、議会最大勢力となった左派左翼連合「新人民戦線」も早々に迷走を始めている。総選挙直前の欧州議会選挙で躍進した社会党は主導権を握れず、左派内での主導権奪還を狙う「不屈のフランス」のジャン=リュック・メランション氏のスタンドプレイは、外国メディアの報道にも少なからぬ影響を与えている。新人民戦線で浮上する次期首相候補はすぐさま内部対立で消えて行く。現在の左派の議論は事実上、左派と与党連合が連携し「不屈のフランス」を切り捨てるまでのポーズに過ぎないと見るべきではないか。[現地レポート] フランスで、右翼「国民連合」、左派左翼連合「新人民戦線」、大統
高田馬場の不動産業者は、中国人経営の店舗は今後も増えると予想する(C)moonrise/stock.adobe.com JR山手線の高田馬場駅周辺では、中国人向けに本場の味を提供する「ガチ中華」の店が目立って増えた。近隣の早稲田大学に中国人留学生が増えたほかにも、治安が良く住みやすいという高田馬場の地域性が影響しているという。海外から日本国内に移り住む人々の暮らしが、日本の風景を変えつつある。ノンフィクション作家の中原一歩氏は、近著『寄せ場のグルメ』(潮出版社)で高田馬場における中国料理店の歴史を繙いた。 *** 夕方5時。JR高田馬場の駅前は騒然となる。早稲田大学をはじめ、駅周辺にある日本語学校、専門学校の授業が終わり、そこに通う各国の留学生が、一気に駅の構内になだれ込むのだ。日本語は全く聞こえてこない。飛び交うのは韓国語、ベトナム語、タイ語、台湾語、そして、中国語。朝夕の2回、高田馬場
10月8日、ドイツの大手メディアはイスラエルの国旗を掲げて「全面的な連帯」を表明した(アクセル・シュプリンガーのXより) ドイツの大手メディアはイスラエルに批判的な報道をする際、「反ユダヤ主義」の烙印から逃れるためにフリーランスのジャーナリストを使うと、あるジャーナリストは指摘した。ガザから移住した元ジャーナリストは、多くの中東出身者が信じたドイツの言論の自由は「フェイクだった」と批判する。「ドイツ人はイスラエルが何をしようと決して批判しない」との不文律が「国是」と結びついたドイツで、メディアは深刻なジレンマを抱えている。 2023年10月7日、イスラム組織ハマスのテロ攻撃によって、イスラエルで1200人が死亡すると、ドイツ最大級のメディア企業アクセル・シュプリンガーは次のような声明を出した。 「テロ組織ハマスによる10月7日のイスラエル攻撃により、数百人の市民が死亡し、数千人が負傷したこ
徴兵対象年齢が引き下げられ、人々はウクライナの兵力不足と苦戦を否応なく意識している。しかし一方、街の復興と「正常化」は、ロシア軍侵攻当初に人々を結び付けた国家防衛の一体感を次第に薄れさせて行く。希望の底に重苦しさが蟠る日々、「誇り」は減じ「悲しさ」や「恐れ」が膨らみ始め、そうした状態に慣れるにつれて、かつての汚職や政争が頭をもたげているという。【現地レポート】 前回筆者がウクライナに滞在した2022年12月~23年1月の冬は、ロシア軍による電力施設攻撃が集中して停電が多く、首都キーウは暗闇に包まれていた。ロシア軍の侵攻当初に比べると人が戻っていたものの、一部の商店や飲食店は閉まったままで、市民が生活を謳歌する状況にはなかった。 今回、街の賑わいぶりは明らかに異なるレベルである。店は軒並み開き、中心街ではショッピングを楽しむ市民が目立つ。ミサイルやドローンによる攻撃を知らせる警報は毎日のよう
恒大集団の経営危機は「通説」より早い時期、少なくとも2019年には始まっていた[2024年1月29日、中国・南京](C)AFP=時事 中国経済を根底から揺さぶる住宅・不動産問題、その象徴とも言うべき恒大集団は2020年夏の不動産規制で経営危機に転落したというのが「通説」だ。だが、先ごろ明らかになった恒大の巨額粉飾決算の実態を分析すれば、正味の危機はもっと早く訪れていたと見るべきだろう。2014年に公布された習近平総書記の肝いり政策「新型都市化 」で沸騰した中国不動産バブルだが、その“崩壊”は一般に考えられてきたより早く、2010年代後半には始まっていた。 売上11兆8400億円を過大に計上。史上最悪の粉飾決算が発覚した。 中国不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)は2019年に2139億元(約4兆4900億円)、2020年に3501億元(約7兆3500億円)の売り上げを水増ししていた。中国
UNRWAの活動分野は、教育、保健、社会サービス、難民キャンプのインフラ整備・環境改善、保護、小規模金融、緊急支援、と多岐にわたる[ガザ地区南部のラファでラマダン前に慈善団体から寄付された食料を受け取る人々](C)EPA=時事 UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)はパレスチナ問題の生成に関わった国連の贖罪意識が投影された組織と言える。占領者イスラエルに代わり難民の基本的生活を保障する「疑似行政機構」としての性格は、職員の99%以上が現地パレスチナ人という特殊な組織形態を必要にした。ハマスによる10月7日テロ攻撃にUNRWA職員が参加したとのイスラエルの糾弾と続く各国の資金提供停止・再開、UNRWAを介さない援助活動の模索といった動きは、こうしたイスラエル・パレスチナをめぐる大きな「思想戦」の文脈の中に位置付けて捉える必要がある。UNRWAとも良好な関係を持っていた日本は非常に苦しい
一枚の写真が論争を呼んだ。ハマス-イスラエル戦争の当事者、イスラエルを訪ねた日本の外務副大臣一行の前に並ぶのはスライスされたスイカだ。スイカはパレスチナのシンボルであり、それを「スライスして喰う」という暗黙のメッセージではないかと言うのだ。実際、外交では食事や会談場所にメッセージが込められることは珍しくない。そしてビジネスや日常生活の場面でも、同様の難題は意外に頻繁に起きている。 2024年2月28日、外務省は、イスラエルを訪問中の辻清人外務副大臣が、同国のイスラエル・カッツ外務大臣を表敬したと報道発表した。辻副大臣は、イスラエル側に対して、ガザ地区の人道支援活動が可能な環境の確保や、人質解放につながる人道的で持続可能な停戦の実現を求め、日本政府の従来の立場であるイスラエル・パレスチナ問題の二国家解決の必要性を強調した、という。 本会談の意義としては、まず日本政府の立場を明確に伝えたこと、
実際の秘密指定事例が著しく狭いものとなる可能性が高い[経済安全保障推進会議で発言する岸田文雄首相(左から2人目)=2024年1月30日、首相官邸](C)時事 「セキュリティ・クリアランス(機微情報の取扱資格)」制度の導入に必要な「重要経済安保情報の保護・活用法案」(仮称)が、近く国会に提出される。経済安全保障上の機微情報を扱う人の適格性を国が認定する同制度をめぐっては、人権・プライバシーの問題が多くの関心を集めるが、日本企業が国際展開の現場で機微情報に関わるためのルール作りという本来の狙いは十分に達成できるのだろうか。 岸田文雄総理は、本年1月30日の経済安全保障推進会議において、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度に関する法案の通常国会提出に向けた準備を加速するよう高市早苗経済安全保障担当大臣に指示を行った。これは、それに先立って、本制度に関する有識者会議において議論の
ドイツ・バイエルン州郊外で標識にぶら下げられた長靴。農民の抗議活動の象徴だ(leopictures / Shutterstock) 「予算措置」に違憲判決が下ったショルツ政権は、穴埋めに農家向け補助金の廃止を打ち出した。しかし農民たちはデモで抗議、各地で交通が麻痺状態に陥っている。相次ぐ政策ミスで政権支持率はさらに低下し、デモを利用した右翼政党の躍進も予想される。 * * * 1月8日、ミュンヘン、エアフルト、ハレなどドイツ各地の幹線道路、高速道路は、数千台の大型トラクターが引き起こした渋滞のために、通行できなくなった。ショルツ政権の歳出削減策に抗議するために、ドイツ農民連盟(DBV)が組織したデモである。農民たちが運転するトラクターには、「我々が農作物を作らなければ、市民は空腹になる」、「政府は我々の仕事の価値を認めてくれないのか?」などのプラカードが取り付けられている。 去年12月中旬
岸田文雄政権は所得税・住民税の減税を決めたが、インフレ対策としては消費減税こそが必要だという声も多い。だが、そこには「税の帰着(tax incidence)」という視点での消費税理解が欠けていると、小黒一正・法政大学経済学部教授は語る。(取材・構成:名古屋剛) *** ――「インフレ対策として、国民が求めているのは消費減税だ」といった意見もありますが、小黒先生は「消費減税では財・サービスの価格が下がるとは限らない」と主張しています。なぜでしょうか。 小黒一正(以下、小黒) それは、消費税が本質的に「第2法人税」の性質をもつからです。 ――「第2法人税」とは、どういう意味ですか。 小黒 法人税と消費税は課税ベースが若干異なるだけで、本質的には似た課税方法なのです。法人税の課税ベースは「売上-(原材料費+人件費)」で、消費税の課税ベースは「売上-原材料費」。これに各々の税率をかけて、税額を算出
ロシア軍は昨年12月の大統領令が示した定員132万人規模に既に達している可能性が高い[対ドイツ戦勝記念日のパレードのリハーサルに臨むロシア軍=2023年5月7日、ロシア・モスクワ](C)AFP=時事 ウクライナ侵略前は90万人台前半とみられたロシア軍は、昨年12月の大統領令で示した定員132万人を既に満たしていると考えられる。戦時増産が続く「モノ」についても、ウクライナとの相対戦力差をいずれ逆転しかねない。膨らむ国防費を賄うのは石油・天然ガス関連収入だ。価格高止まりが前提だが、当面、ロシアの戦費は尽きないだろう。だが、それは1979年のアフガン侵攻から91年のソ連崩壊へと続く歴史の再現かもしれない。 ロシアがウクライナへの侵略を開始してから丸2年が経とうとしている。この間、戦況についてはメディアが詳しく報じてきたが、侵略を行っているロシアの軍事力がどのような状態にあるのかについては意外に報
東大卒のノーベル賞受賞者で、東京の高校を卒業した人はいない (C)yu_photo / stock.adobe.com 英『ネイチャー』誌は、2023年10月25日、「日本の研究力はもはや世界レベルではない」という記事を掲載した。文部科学省は東北大学を「国際卓越研究大学」の認定候補に選定し、巨額の予算を措置するつもりだ。おそらく、その効果も限定的だろう。明治以来、巨額の予算を措置されつづけた理3の現状が、そのことを示している。 知人のジャーナリストが、東京大学理科3類(理3)についての本を出すというので取材を受けた。理3は医学部医学科へと進学する東大教養学部の科類で、日本の大学受験の最難関とされている。 知人の関心は「日本でもっとも優秀な頭脳が集う東大理3から、なぜノーベル賞受賞者が出ないか」だった。私は1987年に東大理科3類に合格した。今年は入学から38年目になる。このことについて、自
ハマスによる奇襲攻撃を防げなかった責任は、軍と諜報機関の最高指揮官である首相に帰着する。イスラエル国内は政権の司法制度改革法案で戦前からすでに分断され、予備役兵士の招集拒否など安全保障体制への悪影響も指摘されていた。「パレスチナ自治政府とハマスの分断を維持することでパレスチナ国家の成立を阻止する」と語っていたともされるネタニヤフ首相に、戦闘終結後に責任を問われるべきだとの国内世論が高まっている。 「ミスター・セキュリティ」としてイスラエルを史上最も長く率いてきたベンジャミン・ネタニヤフ首相。愛称は「ビビ」。2度の失権から這い上がり、権力をほしいままにしてきたその巧みな政治術は「キング・ビビ」の愛称に相応しいとも言える。しかし、10月7日のハマスによる攻撃を招いた大失態は、その“キング”を窮地に追い詰めている。イスラエルのハマスとの戦いは、ネタニヤフ首相の政治生命をかけた戦いと言っても過言で
残虐な殺人事件を起こし世間を震撼させた一人の少年が、更生保護委員会による「社会復帰に問題なし」との判断を得て医療少年院を出てから、来年で20年となる。社会復帰後も遺族の意向を無視して手記を出版するなど、彼の「更生」に疑問を抱く人は多いだろう。「元少年A」は本当に更生したのか。そもそも更生とは何なのか。数々の少年事件を取材してきた記者が考察する。 神戸連続児童殺傷事件をおこした酒鬼薔薇聖斗こと少年A。 すでに少年院を出て、私たちと同じ社会に暮らすAは、はたして更生しているのだろうか――。 じつは、法律には「更生」の定義がない。更生の意味合いは、きわめて曖昧で、抽象的でもある。それだけに、何をもって更生したといえるのか、はっきりしない。 それでも国が更生のために、絶対に必要だとする条件がある。 再犯をしないこと、だ。 かつて刑法に触れる行為をした少年に、再犯をさせないこと。それが、国の更生保護
今年8月、栃木県宇都宮市に誕生したLRT(次世代型路面電車)「ライトライン」。国内の路面電車としては75年ぶりの開業で全国各地からの視察が殺到している。慢性的な交通渋滞の解消、高齢者や学生の移動手段確保、周辺地価の上昇、企業誘致とメリットも多く、これからのまちづくりにおける大きなヒントとなっている。 2023年8月、栃木県宇都宮市でLRT(Light Rail Transit、次世代型路面電車)が開業した。「ライトライン」という愛称がついたLRTは、JR宇都宮駅から中心市街地とは反対の東側、芳賀町までの約15キロを結ぶ。隈研吾氏がデザインした東口交流拠点の広場横をゆったりと通り、これまで全くにぎわいのなかった駅東口、そしてその沿線の光景を大きく変えた。鉄軌道のなかった場所に一からLRTを新設する、日本初の試みである。以下、その経緯と概要、そしてその効果や今後の課題を追ってみよう。 ライトラ
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