サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
Google I/O
econ101.jp
あなたのお気に入りの哲学者を困らせたいなら、最近だと一番良い方法は、箱の上に乗った子どもたちのイラスト(「平等と公平」ミーム)を見せることだ。これを哲学者の苦しみの種というのは言い過ぎかもしれないが、哲学者の仕事を楽にしてくれないのは確かである。 哲学者のほとんどはこのイラストを見たことがあるが、それ以上に重要なのは、学生はみなこのイラストを見たことがあるということだ。それだけでなく、学生たちはこのイラストを持ち出せば議論を完全に打ち切れると考えている。学生らに言わせると、このイラストは「公平性(equity)」の正確かつ議論の余地ない定義を示しており、「平等(equality)」という道徳的理念を決定的に打ち負かしているのだという。そうすると、哲学者たちが未だに平等というテーマについて論ずべき問題があると考えている事態は、非常に謎めていて見えるだろう。 哲学者にとっては残念なことに、この
変化率がマイナスの場合、線は右肩下がりとなる。グーグルで「線は下降する」を検索して最初にヒットしたのが上の図だ。 (私は『国際経済』誌の円卓会議コーナに時々寄稿している。今月のお題は、「金融危機後の2007~2009年の超低金利が格差と資産バブルの拡大に一因になったのか」という懸念についてだった。寄稿者は、2007年以降の金融政策をA~Fの5段階で評価するように求められた。) 〔訳注:アダム・ポーゼンのような有名なエコノミストから、各国中銀関係者、さらにメイソンのような非常に左派的な経済学者と様々な学識関係者が評価を行っている。ポーゼンはA評価。中銀関係者は概して低い評価を行っている。〕 私は総合的に、低金利政策という実験にBの評価を下した。低金利政策は、コストがあると騒がれすぎだ。一方で、メリットについても過大評価されている。低金利政策からの主な教訓があるとすれば、伝統的な金融政策は、極
それこそ,日本のポップカルチャーが世界中で成功している秘訣だ スペンサー・コーンハーバが『アトランティック』に寄稿したエッセイ「アメリカ・ポップカルチャー史上最悪の時代が到来か?」が公開されてから,2週間で大きな反響がうまれている.友人のW・デイヴィッド・マークスやノア・スミス〔当サイトでの翻訳はこちら〕をはじめとして,多くの人たちがこれに触発されて議論に参加してきた――「アメリカは本当に『文化の暗黒時代』に入ったのか?」「もしそうだとしたら,理由は?」 そこで展開されている主張は,こう続く.「アメリカのテレビ・映画・音楽は後ろ向きになっている.昔から続いていてもう味がしないシリーズを繰り返したり,ヒット作の前日譚を出してみたり,リブートをやってみたり,「インターポレーション」をやったり,派生作品をつくったりするばかりだ.一方,オンラインでは,インフルエンサー志望者が形になってないコンテン
近年、アメリカのポップカルチャーは停滞しているとの話題を頻繁に見かける。こうした主張は疑ってかかるべきで、こうした不満は特に目新しいものじゃない。ドワイト・マクドナルドは、20世紀半ば、何十年間も大衆文化を激しく批判していた。マクドナルドは、大衆文化(マスカルチャー)は、ハイカルチャーを汚染し、吸い上げていると考えていた。1980年には、ポーリン・ケイルがニューヨーカー誌に「なぜ映画はこんなに駄目なのか? あるいは数字について」と題した論説を書いて、映画スタジオの資本主義的インセンティブが、派生的な駄作を生み出している原因になっていると主張した。 [1]原注:これらの例を僕はAI(ChatGPT … Continue reading なので、「なぜアメリカのポップカルチャーは停滞しているのか?」という疑問に答えようとすると、そもそも問題になっていない問題について適当な説明をしてしまう危険性
Photo by Maximillian Conacher on Unsplash 保護主義を唱える人たちの物語は,事実より迷信に近い もう何年ものあいだ,「アメリカは製造業を強化すべきだ」とぼくは提唱し続けている.再工業化にアメリカ人が乗り気になったときには,ぼくは「いいぞいいぞ」と応援した.ジョー・バイデンの産業政策をぼくは大いに支持していたし,一期目のドナルド・トランプが自由貿易志向のコンセンサスを打ち壊したのを称賛すらした. トランプ関税を経ても,その点についてぼくの考えはまったく変わっていない.たしかに,この関税は災厄だ.ただ,それはべつに,製造業を強化しているから酷いんじゃなくて,逆に,こうしておしゃべりしてる間にもアメリカの脱工業化を進めているから酷いんだ.トランプ関税によって,いままさにサプライチェーンと輸出市場を活用するアメリカ製造業の能力が破壊されていっている.トランプ
経済記者も、他のどんな書き手と同じように、完璧な存在じゃない。昔の人は、報道記事は全て完全に真実だと思っていたかもしれないし、今もそう思ってる人がいるかもいれない。でも、報道というのは人の営みで、人は間違いを犯す。真実を知りたいなら、複数の情報源を読んで、自分の読んだものに懐疑的になる必要がある。それでも、間違いは紛れ込んでしまう。 なので、この記事の目的は、僕が衒学的で知ったかぶりをすることでも、経済マスコミの書き手を十把一絡げにして侮辱することでも、特定のライターを非難するわけでもない。でも、ほとんどの経済記者があまりに一貫して繰り返してる単純で初歩的な間違いがある。そして、他のほとんどの間違いと違って、多分だけどアメリカの経済政策に深刻な悪影響を及ぼしている。なので、僕としては、声高になって、少しばかり不満を表明せざるをえないと感じている。 経済記者たちが犯している間違いというのは、
貿易赤字にはたしかに問題もあるけれど,トランプが思っているのとはちがう 合理的に議論したり経済理論を解説したりしてトランプ関税を打ち負かせるとは思わない.いや,こういう手合いとどう議論したらいい? キミには新しい iPad なんて必要ない キミには新しいスマホなんて必要ない キミには新しいゲーム機なんて必要ない キミはそういうのを欲しがっているんだ 「必要である」と「欲しい」とは大違いだ 関税について泣き言を言っている人たちを見かけたら,ぜひ質問してやってほしい.この関税で自分の生活がなにか変わったのかい,って ぼくは,しぶしぶ受け入れることにした――「広範囲にわたる関税はダメだ」と幅広いアメリカ人が気づくには,我が身で痛い目をみるしかない.つまり,熱々ストーブに触って火傷をしてみないとわからないんだ.さいわい,遠からずアメリカ人は火傷しそうだ: Source: Gallup こんな話をし
悲しいけど,警告されてたことなんだよね. 関税でアメリカ経済が下水に流されようかというときにすら,トランプ政権は他にも愚かなことをやっている.関税ほどハデに愚かではないけれど,もっと長期的にもっと暗い帰結をもたらしうる愚行だ.先日,トランプ政権はキルマル・アブレゴ・ガルシアというエルサルバドル人男性を無実の罪で逮捕して,エルサルバドルの刑務所に送り込んだ.犯罪の告発もなく裁判もなしで,だ.あとになって,政権はガルシアの逮捕が過誤だったと認めた――ガルシアは強制送還からの保護が裁判所によって与えられたけれど,トランプの配下たちはそれでも彼をふんづかまえた. それから数日後,トランプ政権がアブレゴ・ガルシアがアメリカに戻るのを「促進する」ようにとの下級裁判所の命令を,最高裁判所は全員一致で支持した.当初,トランプは最高裁判所の判断を尊重すると発言していた.ところが今日になって,トランプは方針を
誰かが狂った王を止めないといけない. とんでもなく高いトランプ関税がしばらく撤回されそうもないと投資家たちが認識して,アメリカの株式市場が急落を続けている: アメリカ株式先物は日曜日の夕方に下落した.ドナルド・トランプ大統領が主要な貿易相手国のほぼすべてに対して驚異的なまでに高い関税率を発表した後に2日続けて史上最大規模の株式市場暴落後も,ホワイトハウスは強気な姿勢を崩していない.(…)ダウ工業株30種平均先物は,日曜の夕方に 1,531ポイント(4%)下落し,続いて月曜にも厳しい取り引きが続く見込み.S&P500先物は 4%下落.ナスダック100先物は 4%の損失となった. S&P 500先物は,3回の取り引きセッションで 15% も下落した.もはや「暴落」と行っても言い過ぎじゃない.たった数日で,ドナルド・トランプの政策はすでに 5兆ドル以上もアメリカ人の富を雲散霧消させてみせた.月曜
[Noah Smith, “Imports do not subtract from GDP,” Noahpinion, April 29, 2022] 経済ジャーナリズムでいちばんありがちなまちがい 今朝,『ニューヨークタイムズ』を読んでたら,こんな話が目にとまった――2022年の第1四半期にアメリカの GDP が減少したのは,輸入が増えたせいなんだって: 他方で,ますます膨れ上がった貿易赤字によって,第1四半期に GDP 成長が3パーセントポイント以上も下がった.国外で生産されているので,輸入は国内総生産 (GDP) から差し引かれる.そして,アメリカの消費者たちが支出をしつづけるなか,この数ヶ月で,輸入は急増している.だが,GDP に加算される輸出は伸び悩んでいる.ひとつには,海外での経済成長が低調なためだ.(太字強調はノア・スミスによるもの) 太字にした箇所は,正しくない.というか
MSペイントでノア・スミスが作成したファンアート クルーグマンは偉大な経済学者だけど,それだけじゃなく,経済の語り方の変革者でもある ドキッとした人も安心してほしい.ポール・クルーグマンは存命だよ.ただ,25年近く続けた『ニューヨークタイムズ』コラムニストは引退するそうだ.きっと,引退を惜しむ声はたくさん上がるだろうね.(ちなみに,その後は Substack に移るらしい.だから,きっとたくさんブログ活動をしてくれるはずと期待しておこう!) 大学院2年目の頃に,友人がこう言ってきた.「経済学ブログを始めるべきだよ.そしたら,次のポール・クルーグマンになれるかもよ.」 彼女に,ぼくはこう返した.「いや,ブログはやってみようと思ってるけどさ,クルーグマンの後に続くのなんてどうみてもムリでしょ.」 それはいまも変わらない.というか,クルーグマンのようにやれる人が一人でもいるのか,ぼくにはわからな
この数十年、自由貿易に主に異議申し立てを行ってきたのは、組織化された労働者と政治的左派だった(ここやここで私も自由貿易に意義を申し立てている)。年季の入った中道左派的な政治観を持った人なら、シアトル、ワシントンD.C.、モントリオール等で行われたIMFや世界貿易機関(WTO)に反対する集会に参加したり、参加した友人がいるに違いない。 ドナルド・トランプ大統領が今、反グローバリズムを掲げていることで、左派の自由貿易批判者は厄介な立場に立たされている。全米自動車労組の熱血委員長ショーン・フェインのように、誰が話したかは関係ないとして、トランプのメッセージを受け入れている人もいる。関税によって良質の製造業系雇用が戻って来るなら、誰が提案しようと、労働者とその連帯者は賛成すべきではないか? と。 アメリカでの製造業の再建は、正当な目標たりえるかもしれない。そして、フェインのような人が言うように、原
現在トランプの行っている通商戦略は、アメリカの影響力と技術力を損ない、同盟国やパートナーとの分断を招き、なによりも中国が世界の覇権国家となる道を開くものだ。私は依然として、この背景に合理的な意図はないと考えている。昔からの格言にこういうものがある、「悪意を見出すな。原因は『愚かさ』にあるのだから」。トランプ政権による関税政策がその場しのぎで、土壇場かつ断続的に実行され、なおかつ議会が大統領の関税権限を撤回するよう働きかけていないことは、問題の原因が「愚かさ」にあることを物語っている。 とはいえ、トランプ政権やMAGA運動の内部には、中国の台頭を抑制するような貿易戦略を打ち出すことをトランプに期待している者も存在する。大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長スティーブン・ミランは、「中国は世界の懸念をよそに輸出主導の重商主義モデルに固執している」と述べている。そして、財務長官のスコット・ベッセ
その昔,2002年に起きた一件をいまも覚えている.当時のブッシュ政権が,アメリカ市民ホセ・パディーヤを「敵戦闘員」だと言い放ち,裁判を受ける法的権利を奪った.あれから23年たった今,トランプ政権はあれよりさらに酷いアメリカ市民の基本的自由の侵害に手を染めている.トランプは,大勢のベネズエラ系市民を拘束して苛酷なエルサルバドル刑務所に強制的に送り込んだ.トレン・デ・アラグアというギャングの構成員だからという理由だけれど,その根拠は「タトゥーを彫っているから」でしかない.ある事例では,メイクアップ・アーティストのアンドリー・ロメロが,自分の父母の名前の上に王冠のタトゥーを彫っているからというだけで,強制移送された(政権は,王冠模様をギャングの象徴と考えたんだ). ところが,これすら最悪の事例じゃないときてる.トランプ政権は,アブレゴ・ガルシアという男性を完全な手違いでエルサルバドルに強制移送し
この二極化した議論において、冷徹な事実は不幸にも置き去りになっている。〔…〕このエントリでは、私が移民研究に従事する中でよく出会う8つの神話を取り上げよう。 移民の議論になると、右派の側でも左派の側でも、たくさんの不正確で誤解に基づいた主張が飛び交う。この記事では、実証研究が実際に何を示しているのかを紹介しよう。 移民は2016年の最重要テーマだったが、2017年も重要なテーマであり続けるだろう。だが移民というのは、議論が加熱していると同時にきちんと理解されていないテーマでもある。いわゆるヨーロッパの「難民危機」、移民でパンパンに詰まったボートが地中海岸に到来するというよくあるイメージは、移民はコントロール不可能な脅威であり、大量の移民流入を制限するにはラディカルな政策が必要だ、という印象を与える。大量移民の恐怖は、ヨーロッパ中で極右のナショナリスト政党の台頭を促し、アメリカ大統領選ではド
Screen cap from a video by Noah Smith, Yoyogi Park, 2023 そして,キミの国もきっとそうするだろう理由 日本論に関するノアの第一法則「アメリカでなにかの論議がしばらく続くと,そのうち誰かが自説の論拠に日本を持ち出してくる」 日本論に関するノアの第二法則「そういう論拠の8割は間違っている」 どちらの法則も,高技能移民の受け入れをめぐる最近の論戦で大いに発動してる.テック系右派は,(正しく)こう指摘した――「技能のある移民の流入は,アメリカがハイテク産業で競争優位を維持するのに欠かせない.」 他方,移民排斥論をとる右派のなかには,こんな主張を試みる人たちもいた――「インドからの移民流入を禁止してもアメリカはいまと変わらずうまくやっていける.STEM系従業員の訓練にもっとリソースを振り向ければいい.」 これが馬鹿げた言い分なのが明らかになると
ヨーロッパ時間月曜朝4時、我々はアメリカの集団的脳出血としか言いようのない、決して夢などではない、破壊的な金融的帰結を目撃した。 はっきりさせておきたいのは、これはマクロ経済のファンダメンタルズや外的ショックによって引き起こされた危機などではないということだ。人為的な災害である。そして張本人はドナルド・J・トランプである。 アメリカ時間日曜夜、トランプは「株価の下落は望まないが、薬を飲まなければならない時もある」と宣言し、燃え盛る炎にガソリンを注ぎ込んだ。つまり、トランプは、経済を破壊する貿易戦争政策に頑なにしがみついている。 市場の反応は、即座かつ苛烈なものだった。 アジアの株式市場は完全なメルトダウンモードに突入し、日本市場は一夜にして8%下落し、香港株は10%急落した。欧米市場が今日開けば、世界的な売り込みの発生を確実に見ることができるだろう。 しかし、これはもはや株式市場だけの問題
DEIの支持者は、市民全体が受け入れられると理に適った形で期待できるような、より強力な言説体系を携えて再起する必要がある。 トランプ政権は現在、DEI(Diversity, Equity, and Inclusion: 多様性、公平性、包摂)プログラムを連邦政府機構から追い出そうとしている。これを受け、DEIとは実のところなんであるか(あったか)を巡って、大きな混乱が存在することが明らかとなった。こうした混乱は、DEIの提唱者たちが自身の主張を、1960年代の公民権運動を突き動かした思想やアイデアの直接の延長線上にあると論じがちなために生じている部分がある。実際には、DEIの主張の多くは公民権運動のそれよりはるかに論争的だ。目下生じている本格的な攻撃に抵抗できる望みがあるとすれば、より擁護しやすい言説体系の構築を視野に入れつつ、DEIの主張を再検討することから始めるべきだろう。 大規模な官
ドナルド・トランプ大統領は、「解放の日」と銘打ち、アメリカの輸出に対する貿易相手国の関税、非関税障壁、通貨障壁を相殺するめに慎重に調整されたとする輸入関税の導入を宣言した。しかし米国通商代表部(USTR)の公表した計算の詳細によると、この関税の実際の効果は、アメリカに最大の利益をもたらす貿易分野を最も的確に縮小することになるだろうことを示している。関税による貿易縮小の結果、アメリカの消費者と企業は直撃を被るだろう。株式市場が急落するのも当然だ。 この関税計画は、そもそも国家の貿易の根源的な仕組みについて基礎的な誤解を示している。国家(アメリカ)は貿易を行うことで、一部の貿易相手国との間に貿易赤字(2国間赤字)を計上し、他の国との間で貿易黒字(2国間黒字)を計上することになる。この仕組みは、比較優位の作用を反映したものである。例えば、アメリカはアルミニウムを最も効率的に生産できる国からアルミ
今週はメディアに登場する機会が2回ほどあった。1つ目の記事はポリシー・オプション誌に寄稿した記事で、〔カナダでの〕選挙改革に反対するものだ。2つ目はTVO(TVオンタリオ)の「アジェンダ(The Agenda)」という番組でのドナルド・トランプに関するパネル・ディスカッションだ。実は両者は繋がっているのだが、テレビ番組ではそのことを説明するのに十分な時間がなかった。というわけで、この記事で説明しよう。 まず選挙改革について。私が選挙改革に関する議論で常に指摘しようと努めているのは、次のような論点だ(理解が難しく誤解は避けられないのだが)。「民主的」と広く認められるような投票制度はいくつかあり、その全てが長所と短所を持っているが、他の候補と比べ本質的により民主的であり公正である投票制度などというものは存在しない。研究者のほとんどが、種々の投票制度のメリットに関する議論になると、非常にプラグマ
あなたは特定の道徳的価値にコミットしており、その価値に資するような特定の政策が実現してほしいと考えているとしよう。さらに、その道徳的価値には異論を持つ人もいるため、そうした政策が実現すれば反発が生じるとする。最後に、そうした政策を実現するには様々なやり方があり、自身の価値観に照らせばそれらの手段に対して良し悪しをつけられるが、自身のコミットする価値に資する手段ほど、反対派からのバックラッシュを生む可能性が高く、そのため政策が実行されなくなる可能性が高まる、としよう。ここで興味深い問題は、そうした政策目的を達成する上で、どの程度の妥協をする心構えを持っておくべきか、である。純粋に自分が最良と考えるやり方を貫くべきだろうか? 自身の立場を穏健化させて、バックラッシュのリスクを避けるべきだろうか? これは全く思弁的な問題というわけでもない。多くの人が気づいているように、アメリカのリベラルや進歩派
中華帝国はメリトクラシー(実力主義)だった。これは、長年語られてきた物語であり、何世代にもわたって中国という国家の理解を形作ってきた。中国では、千年以上にわたって、官吏を目指す者は、過酷な何段階もの試験(科挙)を受け、成績上位者は王朝役人の地位を手に入れた。生まれによって人の将来が決まっていた世界では、この中華帝国のシステムは、革命的で近代的に見えた。血統ではなく、才能によって統治が行われていたからだ。 これは深い示唆を持っていた。ヨーロッパの君主は貴族家系や議会と争うことが多かったが、中華帝国では、家柄ではなく教育によって選別された階級――専門的な官僚階級に権力が集中していた。このシステムによって、中国は世襲エリートや、代議機関を必要とせずに、強力で中央集権的な国家を築くことができたと学者らは論じてきた。 この思想は、中国を超えて広く共鳴された。ヴォルテールのような啓蒙思想家は、中国のメ
大学は新聞の衰退から何か教訓を学べるだろうか? 最初に答えを言ってしまうと、学ぶべき重要な教訓があると私は考えている。それは、研究大学の基本的なビジネスモデルが、伝統的な新聞のビジネスモデルと似通っているからだ。どちらのビジネスモデルも、公共財と私的財の2つの財を集めて、「抱き合わせ(bundle)」にして売ることで成り立っている。このビジネスモデルは、消費者が一方〔公共財の方〕を買わずに他方〔私的財の方〕を得る方法を見つけたとき、終わりを迎える。インターネットは新聞の各「欄」を分解することで、伝統的な新聞を殺した。大学にとって問題は、「抱き合わせ」をこれまで通り維持できるのか、それとも2つの財は繋がりを解かれる運命にあるのか、である。 これがどういうことかを説明してみたい。ある種の「財」は便益が極度に分散しており、消費者に料金を支払わせるのが難しい。天気予報が良い例だ。正確な天気予報を行
近代史の大半において、テクノロジーの進歩は労働負担を軽減すると期待されてきた。ケインズ(1930)は、生産性の向上によって2030年までに週15時間働くだけでよくなるだろうと予測した。人口知能(AI)が職場に統合されていく渦中、初期の証拠からは逆説(パラドックス)が示されている。AIを備えるようになった労働者の多くは、仕事量を減らしておらず、かつてないほど忙しくなっている。AIによる自動化と業務委託によって、労働者は以前と同じタスクを効率的にこなせるようになった一方で、労働時間は長くなり、社交や余暇に費やす時間を減らす可能性が高くなっている。 2022年のChatGPTの登場に象徴されるAIの急速な普及は、雇用への影響についての懸念を再燃させた。AIはどのように一部の職務を代行するようになるのか、あるいは別の職務を増やしているのか――つまりは雇用の外延的マージン(雇用規模の変化)について多
19世紀後半、アメリカの経済学者ヘンリー・ジョージの思想は英語圏で広く支持を集めていた。彼の代表作『進歩と貧困』は、経済における土地の重要性を分析し、「地価(land value)」に対する最大限の課税を行うことを提唱した。この書籍は数百万部を売り上げ、その時代におけるベストセラーの一つとなった。 ジョージの考えが広まる一方で、大西洋を挟んだイギリスでは、富裕な地主層が政治を支配し、主に保守党を支持していた。これに対抗する形で、自由党やアイルランドの民族主義者は、借地人の抗議運動を政治的な支持基盤として活用し、土地課税への支持を獲得していった。 ジョージの主張は、エドワード朝時代の左派にとっては最大の好機であった。というのも、新規のインフラ整備により人々が都市中心部を離れて移動するようになり、地方自治体は法的義務の増大による予算の負担増加による危機に直面していた。従来の固定資産税(prop
たくさんの人がジョージ主義(ジョージズム)に関心を持っているようで、私としては大変喜ばしい。知らない人のために言っておくと、ジョージ主義というのは19世紀のアメリカの経済学者、ヘンリー・ジョージの思想に基づく経済哲学だ。彼は『進歩と貧困』“Progress and Poverty”という本を著しており、その基本的なアイデアはこうだ。人類の生み出す富が増えるほど、地価やレントが増大することで土地所有者がその富を吸い取ってしまい、たくさんの人が貧困状態に置かれたままとなる。この問題に対してジョージが提示する解決策は、現在私たちが「LVT(land value tax:土地課税)」と呼ぶものだ。これは、土地の価値それ自体に課税し、土地の上に人々が築く有益なもの(建物や工場など)には課税しない、というものである。 ラーズ・ドーセット(Lars Doucet)がスコット・アレクサンダー(Scott
現スタンフォード大学教授のフランシス・フクヤマは、国家権力の構築過程やその利用と濫用を論じてきた研究者として、最も鋭い議論を行っている人物の1人である。これは特に彼の著書、『政治の起源』および『政治の衰退』によく表れている。今年〔2023年〕の初め、フクヤマはアメリカ行政学会のドナルド・ストーン講義(Donald Stone lecture)を行い、その原稿がAsia Pacific Journal of Public Administrationに掲載されている。ジャーナルのエディターであるジェームズ・ペリー教授、およびフクヤマの許可に基づき、この講義の抜粋を以下に掲載する [1]訳注:元の原稿を確認したところ、省略されているのは主に「官僚の行き過ぎ(Bureaucratic … Continue reading 。講演のタイトルは「ディープ・ステートを擁護する(In Defense o
テクノ楽観主義者を自負しているくせに,「現代世界のいろんな問題のけっこうな割合が,スマホに人類が適応できないせいで生じている」と考えてるなんて,ちょっと皮肉なことではある.スマホが鬱や政治的騒動を引き起こしてるという話は,これまでにたくさんしてきた〔日本語記事〕.さて,豊かな国々で進んでいる認知スキル低下が,不快なまでにスマホ普及と並行していることを示すデータを,ジョン・バーン=マードックがまとめている.下記のグラフは,アメリカで認知スキル低下が2012年頃から始まったのを示している: 「推理・問題解決テストの成績は低下中」(高所得諸国における,さまざまな領域での評価スコアの平均.ティーンエイジャーと成人では,使用尺度が異なる)/ Source: John Burn-Murdoch そして,こちらのグラフからは,認知スキル低下が世界規模の現象らしいことがうかがえる: 「情報を処理するのに困
「暴君たる封建制という概念は完全に廃位を宣言されるべきであり、中世史家への影響力も最終的には終わらせねばならない」(エリザベス・ブラウン 1974年) 歴史・政治・経済学(Historical Political Economy:HPE)の目標は、社会科学者と歴史学者の間に繋がりを築くことだ。しかし、この称賛に値する目標は、実際には非常な困難さを伴っている。学際的〔学問分野をまたいだ〕研究の困難さは増していっており、学問の専門家が進む中、学際性は価値を喪失していっている。また、一般的な経済学や軽量社会科学の新しい技術を習得するために必要な集中的なメソッドトレーニングは、他分野の読書や訓練を妨げてしまう。 お気に入りの歴史・政治・経済学の論文の一つに、リサ・ブレイデスとエリック・チェイニーによる2013年にAmerican Political Science Reviewに掲載された『封建制
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『経済学101 — 経済学的思考を一般に広めることを目的とした非営利団体です』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く