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4月13 慎泰俊『世界の貧困に挑む』(岩波新書) 8点 カテゴリ:社会8点 副題は「マイクロファイナンスの可能性」。著者の名前はシン・テジュンと読みますが、なかなか独特の経歴を持った人物で、過去の著作には『外資系金融のExcel作成術』、『ルポ 児童相談所』といった一見すると同一人物の書いた本とは思えないものが並んでいます。 これは著者が外資系金融機関に勤めてから、五常・アンド・カンパニーという途上国でマイクロファイナンスを行う会社の共同経営者となり、同時に日本児童相談所評価機関でも働いているからです(ちなみに五常は二宮尊徳の「五常講」からきている)。 マイクロファイナンスというと、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスのグラミン銀行を思い浮かべる人が多いと思います。 本書は、もちろんグラミン銀行についてもとり上げているのですが、面白いのは著者の会社も加わっている「ポスト・グ
2月28 河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 近年、注目を集めているエコノミストが「失われた30年」の要因と、現在の日本の経済状況の問題点を診断した本。 副題は「収奪的システムを解き明かす」となっていますが、人によっては「収奪的」という言葉から2024年のノーベル経済学賞を受賞したアセモグル、ロビンソン、ジョンソンの議論を思い起こすかもしれませんが、本書では現在の日本を「収奪的システム」とみなして議論を進めています。 議論は多岐に及んでおり、そのすべてが正しいかどうかを判断する力は評者にありませんが、少なくとも人々の肌感覚には合った議論が展開されており、著者が注目を浴びている理由というのはよくわかりました。 目次は以下の通り。第1章 生産性が上がっても実質賃金が上がらない理由 第2章 定期昇給の下での実質ゼロベアの罠 第3章 対外直接投資の落とし穴
2月21 鶴見太郎『ユダヤ人の歴史』(中公新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書)、臼杵陽『イスラエル』(岩波新書)など、ユダヤ人やその歴史についてはそれなりに知っているつもりでしたが、本書はまた違った角度から、大きなスケールでユダヤ人の歴史を描き出しており、新たな驚きと発見がありました。 近世以降だと、金貸し→ドレフュス事件→ホロコースト→イスラエルの建国といったところが「ユダヤ人の歴史」として想起されるところかと思いますが、本書は東欧やソ連におけるユダヤ人とユダヤ人を取り巻く環境に注目し、そこからイスラエルの政治も読み解いていきます。 本書は、ユダヤ人の特徴、特質ではなく、ユダヤ人とそれを取り巻く環境の「組み合わせ」に注目しています。「ユダヤ人」というカテゴリーは大昔から現在まで存在していますが、その「ユダヤ人」はさまざまなものと組み合わさること
2月15 吉田裕『続・日本軍兵士』(中公新書) カテゴリ:歴史・宗教7点 2019年の新書大賞を受賞した『日本軍兵士』の続編にあたる本です。 『日本軍兵士』はアジア太平洋戦争における、日本軍兵士の死因などをマクロ的に分析するとともに、戦場における歯科医、兵士の体格や服装の劣化、戦場における知的障害者などにも目配りした非常に読み応えのある本でした。 その続編ということで、さらなる細かな分析がなされているのかと思いましたが、そうではなく「なぜ、人命や兵站を軽視する軍隊ができあがってしまったのか?」ということを問う内容になっています。 いわば「プレ・日本軍兵士」、「日本軍兵士・beginning」ともいうべき本で、兵站にしろ医療にしろ、一時は大きく改善した日本軍が再びそれを失っていく過程が描かれています。 目次は以下の通り。序章 近代日本の戦死者と戦病死者―日清戦争からアジア・太平洋戦争まで 第
2月8 梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国』(文春新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 不動産不況もあって減速ムードが強まっている中国経済、もとから習近平政権による経済への締め付けが強まっていたこともあって、アセモグルらが言うように「やはり権威主義国家の中国では経済成長に限界があるのだ」という議論に説得力が出てきたようにも思えます。 一方、中国のEVは好調であり、世界のシェアを見てもBYDをはじめとする中国企業が名を連ねています。権威主義下の中国では自由な経済活動ができず、イノベーションが生まれないと言うわけではなさそうなのです。 こうした状況について、本書は不動産市場の低迷による需要の落ち込みと、EVをはじめとする新興産業の快進撃を表裏一体の出来事として読み解いていきます。 著者は『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)のコンビですが、同じように中国の現在の状況の報告とその理論的
1月31 岩井淳『ヨーロッパ近世史』(ちくま新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 中世と近代の間に設定されている近世という時代は、近代から見れば近代の助走期間のように見えますし、中世から見ると中世の延長にも見えます。 こうした中で、本書はヨーロッパの近世の特徴を「多様な地域から構成される複合国家」、「人や情報のグローバルな移動」という2点に求め、改めて近世という時代の特徴と推移を浮き彫りにしようとしたものになります。 この近世史の見直しは、そのまま歴史を国民国家形成の歴史として描く「国民国家形成史観」を問い直すものとなっており、また「ウェストファリア条約以来の主権国家体制」といったものを相対化するものともなっています。 ダイナミックかつ刺激的な議論がなされている本だと言えるでしょう。 目次は以下の通り。 第一部 ヨーロッパ近世の構成要素第1章 宗教と複合国家第2章 経済と地域社会第3章
12月29 佐久間亜紀『教員不足』(岩波新書) 9点 カテゴリ:社会9点 ニュースにもなっている教員不足、狭き門だった自分の若い頃からすると隔世の感がありますが、教育現場では深刻な問題となっています。 これによってさまざまな問題も起こっていますが、この本はそうした問題を指摘するよりも、「そもそもなぜここまで急速に教員不足の問題が起きてしまったのか?」という原因を明らかにしようとしています。 非常に複雑な教員の定数の決まり方から始まり、実際にどれくらい足りていないのか? といったことを見た上で、行財政改革による教員の非正規化と、教員への負担を増やした教育改革という2つの原因に迫っていきます。 さらに教員不足への処方箋を探り、慢性的な教員不足に陥ってしまっているアメリカの状況を紹介しています。 単純に現在の問題を指摘するだけではなく、こうなってしまった経緯を行政側の立場からも丁寧に説明しており
12月22 2024年の新書 カテゴリ:その他 今年は豊作の1年だったのではないかと思います。毎年、上位5冊を選んでいますが、今年は結構悩みました。特に中公新書のラインナップが充実しており、毎月のように面白い本が出ていました。 ということもあって読んだ割合でも中公が多く、そのせいもあって中公、岩波、ちくま以外の新書についてはあまり読めていないです。 あと、漠然とした印象としては、各社ともややページを抑え気味にしているような気がします。今年はブロックみたいな分厚い新書はあまり目立たず、200〜300ページ程度の新書らしいいサイズ感の本が多かったですかね(もちろん、価格の問題もあるのでしょうが)。 では、まずベスト5をあげて、それから何冊かを紹介したいと思います。 中国農村の現在 「14億分の10億」のリアル (中公新書)田原史起中央公論新社2024-02-21 中国農村へのフィールドワークに
12月12 渡邉雅子『論理的思考とは何か』(岩波新書) 7点 カテゴリ:社会7点 タイトルからは「論理学とその応用」のような内容を想像するかもしれませんが、本書は普遍的な論理学ではなく、文化によって異なる論理というものを探索した本になります。 一般的に自分の体験と感想を書く日本式の感想文は「論理的ではない」と思われているわけですが、本書によると、これも日本の文化に則した論理の1つの形ということになります。 本書では、まず、論理学、レトリック、科学、哲学の4つの論理の違いを指摘し、さらにアメリカ、フランス、イラン、日本の学校教育で求められる作文の違いから、それぞれの文化で求められている「論理」の違いを探っていきます。 全体的に面白く、読者を引っ張る力を持っている本だと思います。 ただし、本書で示されている「論理」の分類や性格づけといったものが正しいのかは、正直なところ自分には判断がつきかねま
11月24 近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 日本の長期停滞の犠牲となったとされる就職氷河期世代、この世代の苦境については新聞や書籍、Webメディアなどでもたびたびとり上げられてきました。また、少子化やニート、ひきこもりなどの問題もこの世代と重ね合わされながら論じられてきたこととも多かったと思います。 では、データで見るとどうなのか? というのを明らかにしたのが本書です。 就職氷河期世代が前のバブル世代(87〜92年卒)に比べると経済的に恵まれていないという想定通りのデータもありますが、就職氷河期前期世代(93〜98年卒)よりも就職氷河期後期世代(99〜04年卒)の状況が悪く、さらにそこから回復したとされるポスト氷河期世代(05〜09年卒)、リーマン震災世代(10〜13年卒)も実は就職氷河期前期世代よりも悪いくらいだったと追うことが見えてきます。 ま
11月19 川嶋周一『独仏関係史』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 副題は「三度の戦争からEUの中核へ」。この副題の通り19世紀後半以降に三度も戦火を交えたドイツとフランスの両国がいかにして欧州統合を引っ張るタッグにまでなったかを辿った本になります。 本書を読むと、それぞれの国の思惑と政治家の個性が独仏関係の改善とヨーロッパの統合を車の両輪のような形で進めていったことがわかります。 ただし、本書の企画が立ち上がったのが2014年ということなので、直後に書き上がっていれば一種のサクセスストーリーとして完結したのでしょうが、今だとそうはいきません。当然、EUの危機やロシアのウクライナ侵攻を踏まえたものにならざるを得ないわけで(クリミアの独立やドンバスでの戦いは2014年にすでに始まっていましたが)、本書の後半にはそうした苦みも混じっています。そして、その苦みも本書の読みどころだと思
10月26 西山隆行『アメリカ大統領とは何か』(平凡社新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 タイトルは「アメリカ大統領とは何か」ですが、大統領を軸にしたアメリカ政治の入門書になっています。 目次を見ればわかりますが、大統領だけではなく、議会、州と連邦政府の関係、裁判所、選挙や政党といったアメリカ政治の基本的な仕組みや実態が一通り学べます。 2016年のアメリカ大統領選挙でトランプが当選し、TPPやパリ協定から脱退するなど今までの外交の積み重ねをあっさりとひっくり返しましたが、同時にメキシコ国境の壁の建設は未完のままで終わりましたし、内政に関しては思い通りにできたわけではありません。 今度の大統領選挙でトランプが返り咲けば、前回できなかったことをすると考えられますが、では、どこまでのことができるのか? ということが本書を読めば見えてくると思います。 大統領選挙についての解説もありますし、来
10月19 今井むつみ『学力喪失』(岩波新書) 8点 カテゴリ:思想・心理8点 共著の『言語の本質』(中公新書)が話題になった著者による、現代の初等・中等教育の抱える問題に切り込んだ本。 「なぜ子どもたちは分数の問題が苦手なのか?」、「なぜ時間の単位がわからないのか?」といった問題に対し認知科学の視点から迫っていきます。『言語の本質』にも出てきた記号接地問題も登場し、後半ではAIについての考察も行われています。 また、「学力喪失」というセンセーショナルなタイトルになっていますが、現状を嘆くのではなく、「どうやったらできるようになるのか?」という問題にも取り組んでおり、危機を煽るだけの本とは一味違います。 教育関係者だけではなく、親が読んでも「なるほど」と思え、なおかつ子どもを学習の躓きから助けるヒントを得られるような内容です。 目次は以下の通り。はじめに第Ⅰ部 算数ができない、読解ができな
10月13 尾脇秀和『女の氏名誕生』(ちくま新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 同じちくま新書から出た『氏名の誕生』が非常に面白かった著者による女性の氏名の歴史を辿った本。読む前は『氏名の誕生』の補遺、B面のようなものかと思っていましたけど、予想以上に盛りだくさんの内容で読み応え十分です。 まず、女性の氏名で議論になっているのが夫婦別姓で、「夫婦同姓は昔からの伝統」と「北条政子に見られるように昔は別姓」という意見が戦わされてきたわけですが、本書によればそもそも女性に名字はないというのです。 これだけでも読みたくなりますが、さらに本書は江戸時代の「お〇〇」(おきく)から明治以降の「〇〇子」(菊子)への変化、識字率の向上する前の名前に対する認識、戦後の国語改革やワープロ、パソコンの普及によって一つの文字にさまざまな字形が存在するという常識が失われ、字形にまで一種のアイデンティティを求める
9月20 満薗勇『消費者と日本経済の歴史』(中公新書) 8点 カテゴリ:社会8点 副題は「高度成長から社会運動、推し活ブームまで」。 本書は「消費者」という概念の捉え方の変化、特に消費者がいかに社会を変えられるのかという認識の変化を追うことで、消費とその消費を行う人々を取り巻く環境の変化を浮き上がらせようとしています。例えば、「「消費者主権」とは何なのか?」、「企業はある時期から「消費者」から「お客様」へのと呼称を変えていくのですが、それはなぜなのか?」といった具合です。 また、本書は消費を取り巻く社会運動を追い、その難しさを指摘した本でもあって、社会運動に興味がある人にもお薦めできます。さらに、一時期の「消費者=主婦」という言説の強さからは戦後社会のジェンダーというものも見てきますし、多面的な楽しみ方ができる本に仕上がっています。 目次は以下の通り。序章 利益、権利、責任、そしてジェンダ
9月14 上村剛『アメリカ革命』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 アメリカ合衆国の独立は世界史の教科書などでも「独立革命」という名称で書かれています。一方、例えば、インドの独立を「インド独立革命」と記載するケースはほぼ見ません。なぜ、アメリカの独立は「革命」なのでしょうか? 本書はこれを「成文憲法の制定」こそアメリカ独立革命の最大の功績とした上で、その憲法がいかにしてつくられ、そして以下に運用されて政治が定まっていったかを比較的長いスパン(ジャクソン大統領の登場あたりまで)で見ていきます。 煩雑にならないようにわかりやすく書かれていながら、それでいて今までの一般的な見方を覆す刺激的な議論が行われているのが本書の特徴で、「新書らしい」新書です。 入門書としても、それなりに知識がある人が読む本としても面白い内容で、フランス革命に比べて教科書の記述としては「わかりやすい」アメリカ独立
9月7 南川文里『アファーマティブ・アクション』(中公新書) 8点 カテゴリ:社会8点 賛否両論の的になりつつ、2023年6月にアメリカ連邦最高裁で違憲判決をくだされたアファーマティブ・アクション。そのアファーマティブ・アクションのアメリカにおける誕生から終焉までを追ったのが本書になります。 アファーマティブ・アクションというと、「差別是正のために必要か?逆差別か?」というようにディベートのテーマのような形で扱われることが多いですが、本書はアメリカでの歴史、そしてその語られ方を丁寧に追っており、非常に勉強になります。 日本でも大学の理系学部での「女子枠」の導入が進んでいますが、本書でアファーマティブ・アクションの歴史を知ることは、こうした日本での問題を考えるうえでも役立つのではないでしょうか。 目次は以下の通り。序章 なぜアファーマティブ・アクションが必要だったのか第1章 いかに始まったの
8月23 濱口桂一郎『賃金とは何か』(朝日新書) 8点 カテゴリ:社会8点 日本型の雇用をメンバーシップ型雇用として欧米のジョブ型雇用と対比させながら論じてきた著者が日本の賃金の歴史について論じた本。 日本の賃金の特徴については『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)の第3章でも論じられていますので、単純に日本の賃金の特徴を知るのであればそちらのほうがいいかもしれません。 一方、本書はさらに細かく日本の賃金の歴史が深掘りしてあり、そして多くの人が気になっている「日本の賃金が上がらない理由」というものがわかるようになっています。 「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」という謎掛けのような言葉が最後に登場しますが、本書を読めばその意味がよくわかると思います。 目次は以下の通り序章 雇用システム論の基礎の基礎第1部 賃金の決め方(戦前期の賃金制度;戦時期の賃金制度;戦後期の賃金制度
7月19 橋本直子『なぜ難民を受け入れるのか』(岩波新書) 9点 カテゴリ:社会9点 副題は「人道と国益の交差点」。タイトルからすると単純に「難民を受け入れるべきだ」という規範的な主張をする本をイメージするかもしれませんが、副題にもあるように各国の国益をシビアに検討しつつ「難民の受け入れを進めるべきだ」という本になっています。 著者は研究者であるとともに、国際移住機関(IOM)やUNHCRの職員、法務省の入国者収容所等視察委員会の委員、法務省の難民審査参与員などを務めてきた実務家であり、本書は理想と実務のバランスを意識しながら論じられています。 理想を掲げて終わるでもなく、現実の問題を数え上げて終わるのでもなく、「難民問題」という難しい問題が適切なやり方で論じられた本です。 目次は以下の通り。はじめに第一章 難民はどう定義されてきたか――受け入れの歴史と論理第二章 世界はいかに難民を受け入
7月1 渡辺将人『台湾のデモクラシー』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 今年の総統選も大きな盛り上がりをみせた台湾のデモクラシーについての本ですが、著者の名前を見て「?」となった人もいるかもしれません。著者はアメリカ政治の専門家で、『見えないアメリカ』(講談社現代新書)などのアメリカ政治の著作で知られている人物だからです。 このように書くと、「米中対立をメインにして台湾の政治を分析した本?」と思う人もいるかもしれませんが、そういうありがちな本でもありません。 アメリカという台湾からみて「特別な国」から台湾の政治と歴史を見るとともに、著者の専門でもあるメディアと選挙から台湾政治の独自性を見ていくという非常に面白い試みになっています。 台湾というと、日本では日台関係、あるいは大陸との関係で分析されることが多かったですが、アメリカとの関係をみていくことで新しい台湾像が立ち上がってきま
6月14 若宮總『イランの地下世界』(角川新書) 7点 カテゴリ:社会7点 イラン革命以来、イスラームの政教一致体制の国家として知られるイラン。イスラーム法による統治が行われ、さぞかし敬虔なムスリムが多いようにも思えます。 しかし、2022年にスカーフを適切に被っていなかったために「風紀警察」に拘束されたことがきっかけで女性が死亡したことをきっかけに大規模なデモが巻き起こりました。 このデモは多くの死者と逮捕者を出して鎮圧されましたが、現在のイランではスカーフなしで女性が闊歩しているといいます。この変化はどう考えればいいのでしょうか? また、バブル期に多くのイラン人が日本に働きに来ていたものの、それ以降となると、イランの人々と接触する機会も少なくなり、イラン人のイメージも持ちにくくなっているでしょう。 本書の著者の「若宮總」という名前には聞き終え覚えがないでしょうが、これはこの名前が本書
6月8 中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 ナショナリストといえば、政治的には「右」であり、「保守」であり、近年は「嫌韓・嫌中」などの排外主義的な傾向を持つ者ものも多い。日本で暮らしているとおおよそこんなイメージだと思います。 ところが、世界的に見るとそうでもないのです。例えば、デンマークでは「左派」と見られる社会民主党のもとで移民を厳しく制限する政策が進みました。 また、何が「ナショナリズム」なのか? という問題もあります。スコットランドの独立を目指すスコットランド民主党は「ナショナリズム」政党と言えるのか? 韓国では、北朝鮮との統一を目指すのが「ナショナリスト」なのか? それとも北朝鮮との対決姿勢をとるのが「ナショナリスト」なのか?というのは一概には決められないでしょう。 本書は、既存の「ナショナリズム」、「右と左」といった概念を大きく揺
5月24 麻田雅文『日ソ戦争』(中公新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 1945年8月8日、玉音放送が流れる1週間前にソ連が日本に宣戦布告し、ソ連に終戦の仲介を頼んでいた日本は万事休すとなりポツダム宣言の受諾へと動きます。 ソ連の参戦は日本の敗戦が決定的になってからのものであり、長い戦争の中では最後のちょっとしたダメ押しのようにも見えますが、ソ連側は185万、日本側でも100万以上の兵士が参加した大戦争であり、さまざまな悲劇をもたらしました。 本書はソ連の参戦が決まった経緯から始まり、満州や樺太での戦い、さらには8月15日以降に行われた千島列島での戦いを追い、さらには日本人居留民を襲った悲劇などを総合的に描いています、 ソ連参戦に対するアメリカ側の考えなども史料を通して明らかにしている一方、日本人居留民の証言なども拾い上げており、まさに日ソ戦争の全体像を提示しようとした本だと言えるでし
5月11 池上俊一『魔女狩りのヨーロッパ史』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 魔女狩りについての新書と言えば、岩波新書の青版に森島恒雄『魔女狩り』があって、魔女狩りが行われたのは中世ではなく近世が中心だったことや、魔女狩りの残酷な実態に驚かされたものですが、それから50年以上経って新しい魔女狩りの新書が登場しました。 何か今までのイメージを覆すような考えが披露されているわけではないですが、今まで数々の新書を書いてきた著者だけあって、あまり煩雑にならないようにしつつも、さまざまな史料や研究成果を紹介しながら、魔女狩りの実態を改めて多角的に検討しています。 「魔女狩り」というと、熱狂や狂気と結び付けられることが多いですが、それにしては魔女狩りは長期、そして広範囲に及んでいます。本書は、「熱狂」では片付けられない魔女狩りの要因を丁寧にときほぐす内容になっています。 目次は以下の通り。
5月3 川名晋史『在日米軍基地』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 副題は「米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史」。この副題が本書のポイントになります。 日本にある米軍基地は1952年に締結された日米安全保障条約を根拠にして使用されています。これにそれこそ中学や高校でも習うことですが、それに対して本書は実はもう1つの根拠があるのだと指摘します。 それが朝鮮戦争のときに結成された「国連軍」の基地としての役割で、実際にその後方司令部は横田にあり、国連軍後方基地として横田・座間・横須賀・佐世保・嘉手納・普天間・ホワイトビーチの7ヶ所が指定されています。 あくまでもこれは形式的なものだろうとも思いますが、本書を読むと、国連軍基地であることはアメリカにとっては都合が良く、それを密かに維持してこようとした歴史が見えてきます。 日本における米軍は日米地位協定のおかげでNATO国内の基地などより
4月26 小泉悠『オホーツク核要塞』(朝日新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 世の中には知っておいたほうが良い知識と、知らなくてもおそらく大きな問題はない知識があると思いますが、本書が扱っているのは後者だと思います。 もちろん、日本の安全保障を考える上でSLBMを搭載したロシアの原子力潜水艦の存在は外せないことではありますが、一般の人にとって本書に書かれているほどの知識は必要ないでしょう。 ただ、それにもかかわらず本書は面白いです。 これは著者のオタク的な知識とわかりやすい語り口のなせる技だと思いますが、海の中で繰り広げ荒れていた米ソの軍拡競争、ソ連崩壊後のロシア海軍の凋落、凋落後の核戦略の練り直し、そしてウクライナ戦争が極東の海に与える影響など、非常に面白く読めます。 テーマ的には新書で出すようなものではないかもしれませんが、それが1冊の面白い新書に仕上がっています。 目次は以下の通
4月10 田原史起『中国農村の現在』(中公新書) 9点 カテゴリ:社会9点 中国農村へのフィールドワークによって中国農村の姿を明らかにしようとした本。非常に貴重な記録で抜群に面白いです。 中国の農村と都市の格差については、NHKスペシャルなどで熱心に農民工の問題をとり上げていたので知っている人も多いと思います。彼らが村に帰ると、そこは都市部に比べて圧倒的に貧しく、お金を稼げそうな仕事もないわけですが、そうした中で農民たちの不満は爆発しないのか? と思った人もいるのではないでしょうか。 また、中国の農村は日本の農村のような地縁による強固な共同体ではなく非常に流動性が高いといった説明がなされますが、「農村」という言葉を日本の農村でイメージする私たちにとって、なかなか流動性の高い農村というイメージはつかみにくいと思います。 こうしたさまざまな疑問に答えてくれるのが本書です。詳しくはこのあと書いて
3月28 中野博文『暴力とポピュリズムのアメリカ史』(岩波新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 副題は「ミリシアがもたらす分断」。「ミリシア」と言っても多くの人にはピンとこないかもしれませんが、これは「民兵」と訳される事が多い言葉です。ただし、アメリカでは州軍も「ミリシア」と呼ばれています。 本書はアメリカにおける2つの「ミリシア」について説明しながら、人民武装の歴史と、それが2021年の連邦議会襲撃事件につながっているさまを描き出しています。 州軍に関する歴史的な説明が中心であるため、もう少し近年の民兵の動きについても知りたいという人もいるかもしれませんが、州軍の歴史を追うだけでもアメリカという国の特殊性が十分に見えてきて面白いと思います。 目次は以下の通り。はじめに第1章 現代アメリカの暴力文化――2021年米国連邦議会襲撃事件の背景第2章 人民の軍隊――合衆国憲法が定める軍のかた
2月28 鈴木真弥『カーストとは何か』(中公新書) 9点 カテゴリ:社会9点 インド社会の特徴としてあげられるのが「カースト制度」です。このカースト制度のもとで「ダリト(不可触民)」と呼ばれる被差別民がいるということも知られていると思います。 ただし、このカースト制度というのはかなり複雑です。学校などではバラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラという4つのヴァルナ(種姓)があるということを習うかもしれませんが、実際はもっと複雑で外部からはそう簡単には理解できないものになっています。 本書はそうしたカースト制度の実態を教えてくれるだけではなく、差別されている不可触民(ダリト)へのインタビューなどを通じて、どのように差別され、どのような生活を送り、差別についてどのように感じてるのかというとを教えてくれます。 差別というのは非常にデリケートな事柄であり、なかなか外部からは見えにくいことで
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