『帝国』の共著者として有名なアントニオ・ネグリに、来日の直前になって入国許可が出ず、関連行事がキャンセルされた。これについての抗議声明が、主催者側から発表された。私はこの事件の経緯も知らないし、法務省がどういう理由で彼の入国を拒否したのかも知らないが、『帝国』の原著を、あの9/11の直後に読んで衝撃を受けた一読者として、ひとこと感想を書いておきたい。 私は、書評であまり大げさにほめるのは好きではないが、2003年に『帝国』の邦訳が出たとき、週刊ダイヤモンドの書評で「現代の『資本論』」と絶賛した。この評価は、今も変わらない。サヨクにありがちな「反グローバリズム」とか何とかいう幼児的な議論ではなく、グローバル化を超えた先に新しい世界秩序を展望する彼らの思想は、マルクスを(いい意味で)継承するものだ。 特に、今回の事件との関連で興味深いのは、『帝国』で彼らが主張したグローバルな市民権という思
今年のベストセラー第1位は『女性の品格』だそうだが、部数×点数で最大のベストセラー作家は、佐藤優氏だろう。今年15冊、今月だけで6冊も出している。雑誌などでも、彼の名前を見ない週はほとんどない。これは『正論』から『週刊金曜日』までカバーする彼の幅広さ(というか無節操)のおかげだろう。 当ブログでも、彼の初期の本(『国家の罠』と『自壊する帝国』)は評価したが、その後、山のように出た安直な対談本はすべて無視してきた。本書は書き下ろしだというので読んでみたが、神保町から自由が丘までの30分で読了。アマゾン的に表記すると、★☆☆☆☆である(だからこの画像にはリンクを張ってない)。 「国家論」と銘打っているのに、いきなり無関係な三位一体論の解説が延々と続き、『資本論』によって国家を論じるが、その解釈は宇野弘蔵。あとは柄谷行人やカール・バルトなどが脈絡なく出てきて、結論は「日本社会を強化するには、
北一輝といえば、一般には二・二六事件を煽動した狂信的なファシストぐらいにしか思われていないだろう。しかし私は、彼は近代日本のもっとも重要な思想家の一人であり、現代にも深い影響を与えているという点では、ほとんど福沢諭吉に匹敵すると思う。彼の伝記の決定版は、松本健一『評伝北一輝』だが、本書もコンパクトな入門書としてよくまとまっている(1985年初版の本の文庫による再刊)。 著者も指摘するように、北の基本思想は昭和期の右翼のような超国家主義ではなく、むしろマルクスに近い社会主義である。それが国体に反するがゆえに、彼は天皇を前面に出したが、実質的には天皇機関説に近い立場をとっている。彼は明治維新を、天皇という傀儡を立てた「社会主義革命」だと規定し、来るべき革命はそれを完成させる第二の革命だと考えていた。 彼が1920年に書いた革命構想、『日本改造法案大綱』はウェブサイトで全文が読めるが、華族制
オンライン・マガジン、reasonの編集者の書いたリバタリアニズムの入門書。副題に"freewheeling history"と書いてあるように、あまり理屈にこだわらず、アメリカの自由主義の歴史を人物中心に追っている。これを読むと、リバタリアニズムは思想や主義というより、アメリカ人のライフスタイルだということがわかる。それが日本で受け入れられない理由でもある。 著者も指摘するように、リバタリアニズムは新しい思想ではなく、合衆国憲法に書かれている古典的自由主義である。ニューディール以後、リベラリズムが政府の介入を求める政治思想をあらわす言葉として使われるようになったため、libertarianismという変な英語(日本語ではいまだに定訳がない)がつくられたが、アメリカの民主党に代表されるイデオロギーは、フェビアニズムの系譜の「社民主義」に近い。 ところが、このアメリカ的な思想に理論的な支
前回のエントリーに引き続き、オタク文化について考える。 この問題を考える上で、まず俎上に上げなくてはならないのが、「村上隆」という存在だ。 村上隆については、ルイ・ヴィトンのモノグラムをデザインしたりしているのを見ると、ずいぶん商売上手なアーティストだなという印象を持っていたぐらいで、もともと関心が薄かった。 けれども、昨年、村上が書いた「芸術起業論」という本を読んで、日本のアーティストには珍しく、世界市場で勝負するという覚悟と戦略性を持った人物だということが良くわかった。この本は、芸術論としてよりも、むしろビジネス書として読んだ方が面白く、得るところが多いだろう。 先のエントリー記事でも紹介したように、現在、村上は、ロスアンゼルス現代美術館(MOCA)で「大回顧展」と銘打った展覧会「© MURAKAMI」を開催している。 大回顧展としたのは、これまでの村上の仕事を総括する意味合いとその仕
今年の初め、『論座』界隈で話題になった「『丸山眞男』をひっぱたきたい」というエッセイが単行本になり、10月に出るそうだ。タイトルは『若者を見殺しにする国』(双風舎)。そこで遅まきながら、ウェブに出ている当のエッセイを読んでみた。 筆者は赤木智弘、31歳のフリーター。いろいろ出ている若者論の類よりもはるかに本質的に、現代の若者の置かれた状況をとらえている。タイトルの「丸山眞男」にひかれて丸山論かと思って読んだ人も多いだろうが、内容は丸山とは関係なく、比喩として使われているだけだ。しかしよく考えてみると、ある種の戦後民主主義批判になっている。内容はリンク先を読んでもらえばわかるが、ごく簡単に要約すると、こういうことだ:最近の「格差社会」とか「ワーキングプア」のような議論は、当事者である私からみると嘘っぽい。メディアでは富裕層と貧しい労働者の格差が問題にされているが、本当に深刻なのは労働者の中
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