最悪で32万人もの死者が想定される南海トラフ巨大地震に備え、政府は救援部隊派遣や物資輸送などの方針を定めた「応急対策活動計画」をまとめた。 日本の大動脈である太平洋ベルト地帯を襲う南海トラフ地震は、国の存亡にかかわる巨大災害になりかねない。 応急活動計画では、被害の全容把握を待たずに人命救助や救援活動を開始することを重視した。 発生から72時間以内に、最大14万人の救援部隊を被災地に派遣する。被災自治体からの要請がなくても、毛布や食料などの必需品を届ける。 東日本大震災を教訓に、国の総力を挙げて人命救助、被害の最小化に取り組む姿勢を示したことを評価したい。 計画は、輸送ルート、救助・消火活動、医療、物資、燃料の5分野で政府や関係機関が取り組むべき行動を時系列で示した。各分野で拠点施設を定めるなど、応急活動の骨格となるものだ。 この計画を実際の災害時に生かすためには骨格に肉付けをし、実効性と
国の権限移譲 地方の意志と能力も試される(12月24日付・読売社説) 国と地方の二重行政によるムダの排除と、地域の個性や特色を生かした創意工夫を通じて、地方の活性化につなげることが肝要である。 政府が、国直轄の国道・1級河川の整備・管理など48の事務・権限を政府から都道府県に移譲する方針を決定した。ハローワークの求人情報の自治体への提供など18項目の事務見直しも決めた。 いずれも来年の通常国会に関連法案を提出し、実現を図る。 国道・河川の権限移譲は、2008年の地方分権改革推進委員会の勧告以来の懸案だ。その後、民主党政権が国の出先機関の「原則廃止」といった乱暴な手法を掲げ、分権論議は迷走したが、ようやく現実的な内容で決着した。 国道や1級河川の一部区間の管理は既に、都道府県に委ねられている。政府しか管理できないとの理屈は成り立たない。国道に接続する地方道との一体的な整備・管理により、整合性
農地管理機構 生産性向上をどう実現するか(9月24日付・読売社説) 新たなバラマキ政策となっては、農業の競争力強化につながらない。規制や補助金の見直しにも踏み込み、実効性ある改革を目指すべきだ。 政府が小規模な農地や耕作放棄地を借り上げ、大規模農家や企業に貸し出す「農地中間管理機構」(仮称)を各都道府県に創設しようとしている。秋の臨時国会に関連法案を提出する方針だ。 借り手が活用しやすい農地とするため、機構は区画整理や用水路の整備なども行う。 農林水産省は2014年度予算の概算要求で機構関連として1000億円超を要望しており、このうち6割を農地の賃料や基盤整備などに充てる考えである。 農家1戸あたりの農地面積は平均約2ヘクタールと狭い。後継者難などを背景に、全国の耕作放棄地が20年前のほぼ2倍の約40万ヘクタールに増えたのも深刻な事態と言えよう。 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で一層の
水俣病の患者認定をめぐって、最高裁が国の認定基準(判断条件)で患者と認められないケースでも、司法により独自認定できる道を開いた。 行政の審査ではねられた被害者を、訴訟を通じて救済する新たな仕組みである。長い間、認定を求め続けてきた人々にとって朗報だ。 ただ、来月で水俣病の公式確認から57年になる。なぜこれほどの年月がたってしまったのか。かたくなな対応を続けた環境省、甘い判断しかできなかった政治家ら関係者は、厳しく反省すべきだ。司法も判断が遅すぎたという批判を免れない。 最高裁は、熊本県水俣市の女性の遺族の行政訴訟では水俣病と認定するよう命じた2審福岡高裁判決を支持した。遺族側の勝訴が確定し、最高裁で患者と認定された初のケースとなった。大阪府豊中市の女性の訴訟では、水俣病と認めなかった2審大阪高裁判決を破棄して審理を差し戻した。 患者としての認定を求める人々に立ちはだかってきたのが、昭和52
水俣病認定判決 争いの終結はなお見えない(4月17日付・読売社説) 国の基準では水俣病と認められなかった被害者について、最高裁は「水俣病患者」と認める判断を示した。 行政と司法で認定の尺度が異なる二重基準の状態が続くことになるだろう。被害者の高齢化が進む中、水俣病を巡る争いに収束の糸口が見えない深刻な事態である。 認定業務を行っている熊本県から水俣病と認められなかった女性2人の遺族が、それぞれ患者認定を求めていた。 うち1人について、最高裁は、水俣病だと認定した福岡高裁の判断を支持した。もう1人の原告については、水俣病と認めなかった大阪高裁判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。 注目すべきは、最高裁が水俣病の認定に関し、「多角的、総合的な見地からの検討が求められる」と指摘した点だ。厳格過ぎると言われる国の認定基準を念頭に置いてのことだろう。 1977年に設けられた国の基準は、水俣病と認定す
混合診療 適用拡大が患者の利益になる(2月22日付・読売社説) 先進的で効果のある治療であるなら、誰でも受けたい。患者の立場で、保険医療制度を改善していくべきだろう。 政府の規制改革会議が「混合診療」の適用範囲の拡大を検討課題に掲げた。 混合診療とは、公的医療保険で認められた検査や投薬とともに、保険が適用されていない治療法を併用することだ。現在は例外的にしか認められていない。 その対象は、高度がん放射線療法の重粒子線治療や、家族性アルツハイマー病の遺伝子診断など、厚生労働省が指定した約100種類にとどまる。 指定外で未承認の新しい治療を受けると、本来は保険が適用される検査や入院費用も含め全額が自己負担となってしまう。 がんや難病の患者が最先端治療に希望を託したくても、経済的理由であきらめざるを得ないケースもあるのが現状だ。 規制改革会議が混合診療の見直しを検討課題に挙げたのは、医療分野の規
新潟県知事選 柏崎再稼動に向き合う契機に(10月22日付・読売社説) 東京電力柏崎刈羽原子力発電所を抱える新潟県で、泉田裕彦知事が3選を果たした。 これを機に、いかに柏崎刈羽原発の再稼働の環境を整えるかが、政府と県、東電に問われている。日本全体のエネルギー政策や経済問題にも大きく影響を及ぼす問題だからだ。 知事選では民主、自民など与野党5党相乗りの現職・泉田氏が、「廃炉」「原発ゼロ」を掲げる共産党候補ら2人を破った。 泉田氏は、柏崎刈羽原発の即時廃炉に反対し、「見切り発車的な運転再開議論は行わない」と公約した。選挙戦では、再稼働議論の前に福島原発事故の徹底的な検証が必要だ、と主張した。 泉田氏は、新潟県独自の事故検証作業を始めている。県民の安全に責任を負う知事として、事故の再発防止に万全を尽くそうとする姿勢は理解できる。 だが、原発の安全性を判断する権限と専門的知見を持つのは、政府の原子力
東日本大震災を想定できなかった「地震学の敗北」を踏まえ、日本地震学会は「地震予知」への取り組みを見直すことを柱とする行動計画案をまとめ、公表した。 大地震の前兆現象をとらえ、発生前に警報を出す「予知」について「現在の地震学では非常に困難」であるとし、学会内の「地震予知検討委員会」の名称も変更する。 地震学の現状に即した社会貢献を実現するためには、国民に過度の期待を抱かせる「予知」という言葉を使わない方がよいと判断した。妥当な見解といえる。だが、学会の内向きの議論に終わったのでは意味がない。 地震学者に今、問われているのは「次の巨大地震にどう備え、立ち向かうのか」という指針を示すことだ。それに応えるために、国の地震防災も「予知依存」から脱却しなければならない。 日本の地震防災は、東海地震の予知を前提として昭和53年に施行された大規模地震対策特別措置法(大震法)を中核に構築されてきた。平成7年
東日本大震災の復興予算の多くが被災地以外に支出されていた問題の波紋が広がっている。野党側は事態解明に向け衆院決算行政監視委員会の小委員会で審議を求めたが、民主党が欠席したため流会となった。 復興目的とは言い難い事業への財源の事実上の流用が判明したうえ、対応すら後手に回るようでは恥の上塗りである。野田佳彦首相はこの問題に対する認識が甘すぎる。復興予算の抜本見直しなど早急な事態収拾を政府に改めて求めたい。 かつて「消えた年金」問題などで追及の先頭に立っていた党の姿がまるで遠い昔のようだ。税金の使い道に疑問が出ているにもかかわらず民主党は閉会中の国会での審議に応じようとしない。裏返せば、この問題の追及を警戒し始めた表れだろう。 復興財源を用いることに首をひねらざるを得ない支出はなお、次々と判明している。官庁施設の耐震改修関連には合計120億円が支出されていたという。「復興予算なのだから被災地の庁
生活保護改革 自立促す就労支援に本腰を(10月4日付・読売社説) 生活保護の受給者は、211万人と過去最多を更新し、今年度の給付額は3兆7000億円にのぼると見込まれる。政府は、生活困窮者の自立支援に本腰を入れるべきだ。 厚生労働省は、就労支援に力点を置いた初の生活困窮者政策案をまとめた。年内に「生活支援戦略」として策定し、来年の通常国会で関連法案を提出する方針だ。 生活保護受給者の中には、働けるにもかかわらず、職のない現役世代が約30万人いる。受給者に占める割合は、過去10年で2倍以上に増えた。 背景には、景気低迷の長期化がうかがえる。雇用保険に未加入の非正規雇用者が増えたことの影響が大きいと言えよう。 厚労省案では、自治体や企業などと連携して、軽作業の労働体験の場を提供する。生活リズムを取り戻させて、安定的な就労につなげる狙いがある。 生活保護受給中に就労で得た収入の一部を積み立て、保
橋下徹大阪市長が提唱する「大阪都」構想を実現するための法案が衆院で審議入りした。 民主、自民、公明など与野党7会派が共同提出しており、今国会で成立する見通しだ。 だが、構想の実現によって、どのように大阪が活性化し、住民サービスが向上するのかは、いまだに見えてこない。橋下氏は構想が「強い大阪」にどう結びつくのかを明確にする必要がある。 法案は既存の政令市などを東京23区のような「特別区」に再編できるようにする内容だ。区長や区議が選挙で選ばれ、区ごとの予算編成も可能となる。地方自治の選択肢が広がる意義はある。 与野党が「橋下氏率いる大阪維新の会を次期衆院選で敵にしたくない」という政治的思惑で法案提出を急いだ結果、問題点や疑問点は詰められないまま残った。 最大の問題点は、特別区への再編によって、むしろ行政や議会の肥大化につながる恐れがあることだ。「大阪都」構想は府市二重行政の解消が大きな目的だ。
被災地集団移転 官民の知恵と能力を結集せよ(7月31日付・読売社説) 東日本大震災の復興事業は時間との闘いでもある。復興が遅れるほど、故郷を見限り、離れる住民が増えてしまう。 事業別に工程表を示すことなどで、被災者が将来に希望を持って地元に住み続けるようにすることが大切だ。 大震災から1年4か月以上を経て、津波被災地での防災集団移転促進事業がようやく動き出す。最も進捗(しんちょく)が見られる宮城県岩沼市の6集落の移転事業で、移転先の宅地造成が8月5日に始まる。 読売新聞の7月上旬の調査によると、岩手、宮城、福島3県の26市町村で約2万6000戸が集団移転の対象だが、このうち政府の同意を取り付け、事業化が決まったのは22%にとどまっている。 住民の合意形成に時間を要したり、自治体の技術系職員の不足から移転先の土地確保などの手続きが遅れたりしているためだ。 昨年度の復興関連予算約15兆円のうち
出先機関改革 分権へ地方の力量が問われる(5月11日付・読売社説) 地方分権にどこまで本気で取り組むのか。政府だけでなく、地方の覚悟と能力も試されよう。 政府が、国の出先機関の事務や権限を地方に移譲する特例制度の「基本構成案」を決定した。 国土交通省地方整備局、経済産業省経済産業局、環境省地方環境事務所の3機関について、希望する各地域ブロックの都道府県で構成する「特定広域連合」に事務、職員、財源を原則丸ごと移す。 政府は月内にも、関連法案を決定、国会に提出し、2014年度の事務移譲を目指すという。 国道や1級河川の管理、民間事業の許認可などの事務を地方に移すことで、国と地方の二重行政を排し、事務の効率化や地方の活性化につなげる。出先機関の見直しは地方分権の大きな柱である。 昨年の東日本大震災の復旧・復興で、東北地方整備局などの出先機関の役割が再評価された。迅速な復興には、被災自治体任せにせ
悲惨な自動車事故が後を絶たない。大型連休の関越自動車道では金沢市からディズニーランドに向かっていた高速バスが大破し、乗客ら46人が死傷した。 花見客でにぎわう京都の繁華街や登校児童の列に暴走車が突っ込む事故も続いた。楽しい時間や将来の夢を一瞬にして奪われた被害者の無念や、家族の嘆きはいかばかりだったろう。 同じ悲劇を少しでも減らすために、危険運転致死傷罪の適用範囲を広げるなど、厳罰化で安全運転への意識を高める必要がある。 京都・祇園で観光客ら7人の命を奪った軽ワゴン車の運転者は、てんかんの持病があり、医師に運転を禁じられていたが、運転免許更新時に申告していなかった。 京都府亀岡市で集団登校中の児童らの列に突っ込んだ軽乗用車の運転者は無免許だった。 千葉県館山市でバスの停留所にいた小学生の列を襲い、1年男児を死亡させた軽乗用車の運転者も、愛知県岡崎市で横断歩道を集団登校中の小学生の列に突っ込
地方自治法改正 住民投票の強化は慎重に(2月22日付・読売社説) 名古屋市と鹿児島県阿久根市における市長と議会の対立・混乱は、地方自治のあり方を考える機会となった。 両者の関係をより健全なものにするため、絶えず現行制度の問題点を点検し、ルールを見直すことが重要だ。 総務省が地方自治法改正案の内容を固めた。3月中旬に閣議決定し、国会に提出する。 改正案は、首長の専決処分の対象から副知事・副市町村長の選任を外す。議会が専決処分を不承認とした場合、条例・予算上の是正措置も首長に義務づける。首長が議会を招集しない時は、代わって議長が招集できるようにする。 いずれも前阿久根市長の独善的な“暴走”を止められなかった教訓を踏まえた法改正だ。こうした歯止めがないのは法律上の不備であり、是正は当然である。 首長解職や議会解散の直接請求制度に関しては、有権者16万人超の都市における住民投票の実施に必要な署名数
共通番号導入 与野党協議の入り口にできる(2月4日付・読売社説) 国民一人一人が固有の番号を持ち、医療や年金などの社会保障サービスと、納税額など所得情報を結びつける。健康保険証や年金手帳の機能もICカード1枚に集約する。 そんな「社会保障と税の共通番号」の導入に向け、政府・与党の社会保障改革検討本部が基本方針を決定した。 6月までに番号制度についての大綱をまとめ、秋の国会に「番号法」案を提出し、2015年から導入するという。だが、もっと早い実現を目指すべきだろう。 共通番号はなぜ必要なのか。 国民が社会保障制度に不信を抱く理由は、自分がどれだけの負担をし、どれほどのサービスを得ているか見えにくいことにある。現状は、困窮している人に必ずしも福祉が行き届かず、必要のない人に公費がつぎ込まれている。 共通番号の導入は社会保障の透明性を確保し、公平性と効率性、利便性を確実に高めるだろう。 国民は自
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