漫画家の水木しげるさん(93)が出征前につづった手記が5月末、家族によって発見され、『新潮』8月号に発表されました。20歳の時、1942年10月から11月にかけて執筆したと推測されます▼日本が太平洋戦争に突入し、全国民が戦争に巻き込まれていった時代。成年男子は徴兵制によって、いや応なく戦地に送られました▼「将来は語れない時代だ。毎日五萬(まん)も十萬も戦死する時代だ」「今は考へる事すらゆるされない時代だ。画家だらうと哲学者だらうと文学者だらうと労働者だらうと、土色一色にぬられて死場へ送られる時代だ。人を一塊の土くれにする時代だ」▼画家を志し、芸術の美とは何かを追求して哲学書を読みふけり、聖書や仏教書に生きる意味を問う青年の姿が浮かび上がります。しかし輝かしいはずの青春の日々は、戦死の恐怖に塗りこめられていました▼「こんな所で自己にとどまるのは死よりつらい」。どうせもうすぐ死ぬのなら、自己を