「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜 早川 タダノリ (著) 税込価格:1,944円 出版社:青弓社 ISBN:978-4-7872-2065-3 近年、目に触れる機会が異常に増えた「日本スゴイ」本。 本書は、この「日本スゴイ本」を歴史的にさかのぼり、とくに1925年から1945年までに刊行された「日本スゴイ本」を「日本主義」「礼儀」「勤労」など現代の「日本スゴイ本」に見られるキーワードごとに整理し、その内容をいじわるな目線で吟味するもの。 しかも親切にも、古典的名著は完全排除し、歴史のごみ箱に捨て置かれたようなくだらない本、知っていても役に立たない本、人類の運命にとってはどうでもいい本を厳選し、紹介してくれています。 とくにわたしが好きなのは、1933年に出版された『日本人の偉さの研究』。 あらゆる領域で日本と日本人の世界一ぶりを列挙した本なのですが、ひときわ目を引くのが「
今野:それなのに、日本は、これからもっと学費を上げると言ってるわけでしょう。そうなれば、地方の子どもはなおさら都心の大学に行かなくなりますよ。本当だったら東大、京大へ行ってiPS細胞を発見するような人間が、自分の家の近くの公立大学に行って、地方の公務員に落ち着いてしまうんです。 そうならないように、ある一定の大学は、学費を無料にするとか、低収入の世帯の学生には生活費を補助するとか、勉強したい子がおカネの心配をせずに勉強できる環境を作らなければ、「エリート」の再生産すらできません。 手に職があるかないかで、その後の選択肢が全然違う 藤田:大学改革もずっと議論されていることだけど、貧困の現場、雇用劣化の現場を見ている側からいえば、職業訓練的な大学や学校をもっと整備していくべきです。手に職があるかないかで、その後の選択肢が全然違ってきますから。 今野:その場合、劣悪な職業訓練にならないようにしな
今野:おカネということでいえば、教育費もなんとかしないとダメでしょう。東大生の親の年収が1000万円以上というのは恐ろしいことですよ。貧困の実態や劣悪な雇用の現場を知らないで育った人間が、将来の為政者になっていくということだからね。 藤田:すでにそうなっていますよ。東大生や京大生のゼミで議論しても、貧困や格差のことをまったく理解していません。国家公務員の研修も同様で、彼らは、日本社会でなぜ働けない人たち、努力したくでもできない人たちが増えているのかをほとんどわかっていないのです。 今野:富裕層はお受験するから、小学校の段階で分断されるんですよ。だから、貧困な友人もいないでしょうし、ヤンキーに殴られるような経験もしてない。だから、多様な立場の人間が社会にいることも、想像することが難しくなってしまうと思います。 藤田:貧困層の子供と一緒に遊んだり、ケンカしたりする経験がまったくないんですよね。
今野:日本の社会保障制度が脆弱であることを前提にするなら、まずは「戦略的」に生き抜くことが大事になります。そのときに、世代間対立なんてしている場合じゃない。子供がブラック企業で使い捨てにされたら、そのツケは親世代にまわってくるわけじゃないですか。「若者は甘い」なんて、言っている場合じゃない。少なくとも、「家族」に関しては、そんなことを言っていても自分の首を絞めるだけです。 だったら、親世代は自分の生活を防衛するためにも、息子、娘と共闘して、賃金を取り戻してほしい。それができなかった場合は、共倒れにならないために、世帯を分離して、必要な社会保障を受けてもらう。「親だから、全部面倒見なければ」と考えてはいけないんですね。 住宅は最大の福祉制度
藤田:騙されても、証拠があれば取り戻せる、と。 家族を守るために家族が一丸となって立ち向かう 今野:そう。だってそれができるかどうかに、家族の運命がかかっているんですよ。2年間の差額請求って、何百万円というものすごい額になります。それだけあれば、新しい資格を取るための元手にもなるし、当座の生活資金にもなる。 うつ病になったとしても、治療代に充てられる。労働災害が認められれば、そもそも治療費は全額無料になります。お父さんの助言で、子どもが差額の賃金を取り戻せたら、「お父さん、ありがとう」と感謝されて、もしかすると逆に援助してもらえるかもしれません。子供が鬱になって何年も引きこもって面倒を見なければならない事態を考えれば、天と地ほどの差でしょう。 詐欺企業からおカネを取り戻すノウハウはすべて、『求人詐欺』(幻冬舎)という本で具体的に書きました。家族を守るために、ぜひ活用してほしいと思っています
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藤田:そこに、求人詐欺も横行しているわけですね。 今野:そう。求人詐欺の難しいところは、求人票を見るだけでは詐欺かどうかがわからないことです。たとえば、A社とB社があって、A社は残業100時間で20万、B社は残業なしで20万だとしても、求人票の段階では区別がつかない。入社した後にしかわからないんです。リクナビでもマイナビでも、残業代を含んだ金額を「月給」として平気で提示しています。国も取り締まっていません。ですから、私のような専門家が見ても、本当の月給は、まったくわからないのです。 藤田:求人詐欺の話も、本当は深刻に蔓延しているのに、ごくごく一部のブラック企業がだましているだけという認識だから、多くの人にとっては他人事にしか聞こえないんですよね。 今野:その認識は、圧倒的に間違っているんです。2014年に「ブラック企業対策プロジェクト」が実施した調査によれば、ハローワークで見つけた求人18
藤田:だったら、失業期間中にそういうスキルを身につける訓練メニューを拡充すべきなのに、まったくそうはなっていない。 今野:おっしゃるとおり。安倍首相にいたっては、「失業なき労働移動」というトンデモ発言まで飛び出すのだから、始末に負えません。「失業なき労働移動」なんて、「なんでもいいから、とにかく仕事をしろ」ということしか言っていない、本当に貧しい国で、独裁者がやるような政策です。 しかも、この政策はもう一つの重大なミスマッチをも放置します。それは、日本の労働環境が過酷すぎるということです。労働時間に上限規制がなく、サービス残業も当たり前。過酷な労働は若者のうつ病を蔓延させ、少子化をも進めてしまっています。ブラック企業は、言ってしまえば「人類とミスマッチ」なのです。それなのに、ただ「転職すればいい」というのはあまりに無責任です。 藤田:ブラック企業を転々と移れと。 今野:失業期間というのは、
藤田:バブル崩壊とともに、1990年代から徐々に雇用の劣化や派遣労働の規制緩和が進んでいきましたね。 今野:特に大きいのは、2004年の製造業派遣の解禁です。会社からリストラされた人たちが、「月給25万円以上可」という求人に誘われて、工場に吸い込まれていくわけです。 でも、フタを開けてみたら、お盆で工場が止まる8月なんて、手取り10万円以下というひどい話になる。「寮完備」と書かれていても、実際は3DKのファミリー向けアパートに3人詰め込まれて、月5万円ぐらい天引きされる。こういうことが実質的な「失業対策」として制度化されていったんです。これが元祖「求人詐欺」ですね。いわば、求人詐欺が2000年代の貧困対策として機能してしまったわけです。 挙句の果てに、2008年のリーマン・ショックがあって、100万人以上の派遣労働者が一斉にクビを切られ、貧困が可視化されるようになりました。しかしそれでも、
若者に貧困を強いる劣悪な雇用環境 藤田孝典(以下、藤田):私の新著『貧困世代』(講談社現代新書)と今野さんの新著『求人詐欺』(幻冬舎)は、多くの問題意識を共有しているように思いました。一言でいうと、いまの若者は現在、そして将来も、大変な貧困に陥らざるをえないような環境に置かれているということです。 私が所属しているNPO法人「ほっとプラス」には、食べるものにも困って、栄養失調状態で訪れる10代や20代の若者がいます。彼らは決して特殊な少数派ではなく、生活に困窮した若者の相談は後を絶たないんです。 にもかかわらず、上の世代はそういった若者が置かれている現実をまったく理解できていない。どう考えたって、現在の日本の社会構造や雇用環境は、若者に貧困を強いる劣悪なものになっているのに、それがまったく伝わらない。 今野晴貴(以下、今野):「若いんだから、働けばなんとかなるだろう」とかね。 藤田:ええ。
Yoshiの『Deep Love』がヒットしたのが2002年、美嘉の『恋空』書籍化が2006年。Wikipediaにはケータイ小説の「ブームは終わった」と書かれている。たしかにかつてのように100万部、200万部クラスの作品はなくなった。 しかし2015年12月に刊行された沖田円『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』は口コミで広がり発売3か月で16万部。櫻いいよ『君が落とした青空』は横書きの文庫で6万部まで到達したのち縦書きでも刊行され、さらに4.5万部売り伸ばしている。 単行本なら初版4000部以下がざらである日本の小説市場において、ケータイ小説の書籍化は、映像化に頼らずとも継続的にポテンヒットを生み出しているジャンルとして注目に値する。 また、内容面から見ても、「実話をもとに書かれた」と銘打った、性的暴力や妊娠、難病による死などを扱ったジェットコースター的な物語というかつてのイメー
菅付 雅信氏の新刊『物欲なき世界』(平凡社刊)。資本主義の爛熟の果てに先進諸国が行き着いた“誇示的な消費”の終焉をさまざまな事例をもとに検証しながら、ポスト資本主義/ポスト消費社会へのポジティブな移行を模索する。今回、著者である菅付氏に話を聞いた パーソナルコンピューターとインターネットが私たちの生活に本格的に浸透し始めてから20有余年。もはやデジタルテクノロジー台頭以前のライフスタイルを思い出すことすらできないほど、私たちの行動様式、思考方法、さらには価値観、幸福感は大きな変容を遂げた。 同時に人々の感覚と感性の変化にともなって、社会構造や経済基盤も20世紀型の旧モデルから21世紀型の新モデルへと移行を迫られている。 そんな中、現在進行しつつある時代の地殻変動をさまざまな事例の検証やキーパーソンへのインタビューとともに描き出した編集者の菅付 雅信氏による書籍『物欲なき世界』が話題となって
実は正確な書名は「日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか(著者岩瀬昇)」 これは書評ではなく、この本を参考に日頃考えていることをまとめてみた。 アメリカが昭和16年夏に石油を全面禁輸したことが日本を対米戦に駆り立てた決定的要因であったことはよく知られている。昭和天皇独白録でもこのことに触れている。 だがアメリカの石油禁輸と日本の対米開戦決断の関係については誤解している人が多い。日本はアメリカが石油を全面禁輸したのに逆上して開戦決意したわけではないし、テキサスの油田を取るために開戦決意したわけでもない。 戦前日本の石油自給率は低く産地は僅かに新潟と北樺太(ソ連領であったが日本は石油採掘利権をもっていた)だけであったし、比較的近い石油産地と言えば蘭印(インドネシア)しかなかった。しかも宗主国オランダは前年5月ドイツに占領されたので蘭印は半分空き家というのが日本の認識であった。 そもそも日
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